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第九十九回

「子供の頃、よく落とし穴で遊んだりしましたよね。それと同じなんですよ。運悪く、その穴へ上山さんが落ちられたと考えて下さい。宇宙では星を飲みこむブラックホールの存在が知られていますが、それも落とし穴です。上山さんは、私達がいる人間界に生じたひずみに落ちられたんですよ」

「そんなことって、あるんですか?」

「ええ…、まあ普通は、あり得ません。天文学的確率の小ささで起こる事象なんです」

「そんな希少な確率なのに、なぜ私だけが?」

「はあ…、問題はそこなんですよ、上山さん」

 つくだ教授は上山の方へ身を乗り出してそう云った。

「えっ? どこなんです?」

「ははは…。面白いお方だ。要は、上山さん、あなただけがその天文学的確率で起こり得ない事象に遭遇されたか、ってことです」

「はあ…。そのことは平林君とも話していたんですが、私が思い当たることと云えば、北枕で寝たってことだけなんです。いや、実はこのことを話せば長くなるんですがね、教授」

「私は構いません。洗いざらいお話し下さって結構です」

「そうですか? それじゃ…。実は数日前、私の目の前から人の姿が消えたんですよ」

「ええっ! そりゃ、どういうことでしょう?」

「ですから、北枕で寝ましてね、目覚めたその日、人の姿が皆目、なかったんです。それでいて、機械や交通は日常と変わらず、いつもどおりだったんですよ」

「それは、きっ怪な…」

「ええ…、その日の朝、いつものように食事も済ませ、出勤しようと思っていた矢先、平林君が現われ、二時間ほど出勤を遅らせるように云ったんですよ」

「ああ、幽霊の方ですか?」

「はい…」

 上山は包み隠さず、自分の身に起こった事柄を佃教授に語りだした。

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