第百回
「ははは・・・。まあ、そんなことは、この際、余り関係はないんです」
「関係ないんですか、北枕は?」
「ええ、たぶん…。その幽霊さん、それ…、あっ、そうそう、平林さんでしたか? その方はどう云ってられました?」
「えっ? 平林君も他に何かなかったですか? とは訊いておりましたが、はっきり、コレコレとは…。それに、そのことは、私の前から人々が消えたことですし、私に平林君が見えることとは、また別次元の話ですから…」
「ああ、そうでしたね。うっかり混同するところでした。私が云えることは、先ほど云った点です」
「天文学的な希薄さの確率でしか起こり得ないことに私が遭遇し、平林君が見えるようになったということですか?」
「ええ、まあ、そうなります…」
佃教授は椅子を立つと、空になったコーヒー缶を屑籠へ捨てに、ゆったりと歩いていった。
「いったい、なぜ私だけに、そんなことが…」
「…、ええ、それなんですが、霊動学として述べるならば、霊磁場の歪みに天文学的な偶然性で上山さんが落ちられたと…」
「先ほど云われたことですね?」
「はい、何度も云うようですが…」
「それじゃ、その落とし穴から抜け出る手立ては?」
「私も考えてはみますが…。今の状態じゃ、具合が悪いんでしょうね?」
「えっ? …そう云われますとねえ。平林君が見えることにも、もう慣れましたしね。いや、今じゃ彼が見えないと返って寂しいことすらあります」
「そうですか。すっかり恐怖心はおなくなりになったということですね」
「はい、まあそうです…。って云いますか、恐怖心は最初から、そうはなかったんですよ。恨んで化けて出られた訳じゃないんですから…」
上山は微笑んで云った。




