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第七十四回

「そういうことだ、君…」

 急にトーンを落として上山は云った。

『分かりました。…ここは、やっぱり無理ですね。お一人の時に寄ります。…っていうか、お約束は続けますので、例のように都合いいとき、お呼び下さい。では…』

「ああ…」

 幽霊平林はスゥ~っと、さりげなく消え去った。上山は両手で口を覆った案内状を机上に置き、なんとなく見つめた。披露宴までは二ヶ月・ほどはあり一応、ホッとした。

 その日は会社でこれといった急用もなく、退社時間が迫っていた。上山は余り残業はしなかったから、会社ではそう出世しないだろう…と、社員達は思っていた。むろん、上山もそう思っていた。

「じゃあ、出水君、あとはよろしく…」

「はい! お疲れでした」

 いつものように五時になると、上山は、そそくさと席を立った。その時、机上のインターホンが鳴った。━ なんだ! こんなときに… ━ と上山は、その内線に出た。社長室からで、声は田丸だった。

「おお、上山君か。退社時に悪いが、私のところへ、ちょいと顔を出してくれんか。いやなに、すぐに済むことだ」

「はい! すぐ参ります!」

 上山は内心でチッ! っと舌打ちしたが、社長の言葉だから致し方なし…と諦念し、かばんを机上に置くと社長室へ急いだ。廊下を曲がり一階上の社長室へエレベーターで昇る。すると、こともあろうにエレベーターの中へ幽霊平林が現れた。んっ? と、上山は思ったが、よく考えれば、肩を上げ下げし、首を無意識で一周グルリと回してしまったことに気づいた。だが、もう遅い。

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