二章 第百回
効力が無限にして無上・・とは、念じれば、その及ぶ範囲は限りがない、ということか。だとすれば態々(わざわざ)、その国へ現れずとも、日本国内でいいのではないか…と、ふと疑念が幽霊平林の胸中を過った。そうならば、上山に云われた効力を調べる必要もないのだし、今、こうして霊界万集を紐解いている手間も用なしなのだ。まあ、そのことを霊界万集で知ったのだから、ここまでの流れは無駄ではないか…と、幽霊平林は考え直した。すぐに、そのことを上山に云おうと思ったが、つい先ほど人間界へ現れて戻ったのだから、そう時は経っていないと思えば、上山が深い眠りに落ちた時間帯であることは、大よそ察せられた。そこで、幽霊平林は空の霊水瓶を、いつものようにセットし、止まった。止まったとは、人間界で云うところの眠った、という状態である。霊水瓶には一時間ごとに溜まる水量目盛が記されている。もちろん、幽霊平林が工夫したもので、セットの時間は人間界を離れた夜九時から霊界万集を紐解いた後、セットするまでの約一時間を加えて、夜十時とした。むろん、人間界へ現れて正確な時間を確認していないのだから、五分~十分、いや十分~二十分くらいの誤差は想定された。それでも、ほぼ正確なら、上山が起床する朝の七時前後に現れればいいだろう…と、幽霊平林は思った。霊界には眠るという概念がないから、当然、意識が遠退くこともなく、ただ心理状態が安定して無の感覚となり、漂う動きが止まるだけである。だから、止まったままある程度の段階で水量を確認しに動けばいいのだ。人間界と異なり、眠る必要がない霊界は至極、便利に思えた。しかし、疲れはないものの、止まらない状態が続けば霊気が低下し、悪くすれば動けなくなることも想定された。例えるなら、充電しない携帯電話のようなものである。要するに、霊気という充電が幽霊には必要だということである。幽霊平林は他の御霊と同じとは云えなかったが、その点では同じだった。




