二章 第七回
「すみません。…私、佃教授の研究所でお世話になった田丸工業の上山と申します」
「はい…。佃さんは時折りお見えになりますから、よく知っております。それが、なにか?」
奥の間から舞台寺の住職と思しき僧侶が現われ、そう云った。
「ご住職でございますか?」
「はい、さよで…」
「実は、佃教授が研究材料にされておられますお墓の土のことで、ちょっとお訊ねしたいことが、ありましたもので…」
「ほう! こんな夜分に来られるくらいですから、お急ぎのご用か、のっぴきならんことなんでしょうな」
「いやあ…、それを云われると、お恥かしい限りでして。…実は明日でも明後日でもよかったのですが…。思い立ったら済ませたい性分が邪魔を致しまして、こんな時分に…」
上山は、ははは…と愛想笑いをして誤魔化した。幽霊平林は完全に野次馬気分で、天井近くまで浮き上がって三人を見下ろしていた。
「そうですか…。で、どういった?」
「ええ、ですから、佃さんが研究に使われているお墓の土なんですが、どのようなものか、少しお訊きしたいと思いまして…」
「ああ、さよでしたか。いえね…、私の寺の墓地は、ご覧になれば分かると思いますが、かなり広い敷地でしてね。それに、この寺は、かなりの歴史がある古刹でして…」
「ええ、それが…」
「私にも分からないような無縁仏さまのお墓もございます」
「はい…」
「そのお墓も、幾度も改葬されておりまして、現在では空き地になっておるのでございますが…。で、その土地も、かつては無縁仏さまのお墓であったろうと推察されまして…」
「そこが、佃教授の?」
「ええ、そこの土地を、ほんの僅かずつですが、ご研究に使われておる、というようなことでして…」
「なるほど…、そういうことでしたか」
「これから、その場所、ご覧になられますか? もう暗うございますが、よろしければ…」
「えっ? はい、出来ましたら…」
住職は上り框から下へ雪駄を履いて下りると、上山を先導しようとした。
「あっ! あなた、これっ!」
住職の妻と判明した中年女が、入口に置かれた手提灯を住職に手渡そうと駆け寄った。住職は、それ受け取ると、慣れた仕草で中の蝋燭に火をつけて歩きだした。懐中電灯ではない古風な所作に、上山はこの寺の歴史の深さを感じながら後ろに続いた。上手い具合に興奮の度合いが下がり、頭上の青火が消えた幽霊平林も、その上山に合わせてスゥ~っと流れた。




