書籍16巻 発売記念SS『代理人ヒューバート』
――――広場に設置した机で ヒューバート
様々な理由で領主であるディアスが不在になる時は、アルナーがその代理となる。
……が、アルナーには領主としての判断がしきれない時があり、忙しいことも多いため、その時にはヒューバートが実質的な代理をこなすことが多い。
そうなると自分のユルトに引きこもってもいられないので広場に机をおいて、代理との文字が書かれた看板を設置し、そこで事務作業を行っていた。
その際にはディアスと同等の権限が与えられるが、ヒューバートがそれを振るうことはほぼないと言える。
「はい、はい、いつも通りですね、そのまま進めてください。
はい、その通りに進めてください、こちらからは何もありません」
と、何か報告があっても、ただただそう言うだけで、淡々と確認作業を進めていく。
「……え? ドラゴンが出たんですか? ああ、バリスタで討伐済み? はい、分かりました。
素材の管理だけは厳重にお願いします。
……関所に来訪者? 貴族ですか? 許可証を持った行商人ですか?
そうでなければ領主不在を理由に帰っていただくか、関所で滞在していただくようにお願いします。
臨時の判断が必要そうな場合は、関所代官の判断に任せます」
何事があっても冷静に、淡々と。
……そうやって処理をしていく中でヒューバートは、ドラゴン出現というとんでもない情報を、簡単に処理してしまった自分に少しだけ驚く。
以前なら大騒ぎ、自分も大慌てで顔を青くしていたはずなのだが……もうすっかりと日常の一コマ扱いだ。
鬼人族の魔法と、始祖の銀による接近感知……そこからすぐさま対ドラゴン用バリスタの配備が行われて、一斉射撃……余程の事態でなければそれで解決してしまう。
そうやってドラゴン素材が手に入れば、また設備が整っていって……今後更に対策は楽になっていくことだろう。
「……最近ではトロッコでバリスタを移動させるなんて案も出ていますし、本当に余程のことがなければ余裕なんですよねぇ……」
ある程度事務処理が終わり、犬人族や鷹人族による報告もなくなり、ちょっとした合間で思わずそんな独り言が出る。
独り言なのだから当然返ってくる言葉はないのだが、広場を抜ける爽やかな風がそれの答えのようで……ヒューバートはなんとも良い笑みを浮かべる。
と、その時、足元で気配があり、視線をそちらに向けると、にゅっと地面から突き出る小メーア……かつてメーアモドキと呼ばれていた者の顔がある。
「……あら、あの男はいないのね。
今回の討伐に関する話は、帰還後にするので、そう伝えておくように」
「は、はい! 分かりました!!」
思わず背筋を伸ばしながら返事をするヒューバート。
それに満足したかのように小メーアはどこかへと消えて……ヒューバートはそれからほっとため息を吐き出す。
ドラゴンには慣れたがこっちには慣れないなぁと、もう一度ため息を吐き出したヒューバートは、気持ちを落ち着かせるために改めて事務所類へと視線をやって、作業に没頭するのだった。
お読みいただきありがとうございました。
最終章に突入した16巻をよろしくお願いします!!






