第十四話 商売の神ヘルメス
第14話 (仮)
「はぁ……。どうして、メガネの魅力は伝わらないのかしら……」
「トウモロコシ様、私はメガネが素晴らしいと思います!」
「ありがとう、コーンミール。でも、私が望んでいるのは、もっと多くの猿たちにメガネの魅力を知ってもらうことなのよ……」
トウモロコシは遠い目をした。
「私の魅力だって、もっと理解されてもいいはずなのに……」
「この世界は、あなたの魅力に気づいていないのです」
突然、背後から声がした。
「えっ……?」
「ですが、私だけはわかっています。あなたのメガネの魅力を」
「め、メガネの……魅力……!」
「ええ。あなたの素晴らしさを理解できない者たちこそ、見る目がないのですよ」
「あなた……!」
トウモロコシは感動に打ち震えた。
「やっと……やっと、私の理解者に出会えたわ……!」
隣で話を聞いていたコーンミールも、目を輝かせていた。
「私も、トウモロコシ様のメガネは素晴らしいと思います!」
「おお、あなたもわかってくださいますか!」
「はい!」
二人は固く手を握り合った。
男は満足そうに微笑んだ。
「商売とは、価値の移動から始まるのです」
「価値の移動……?」
「そうです。どれほど素晴らしいものでも、その価値を理解する者のもとに届かなければ、意味がありません」
トウモロコシとコーンミールは、真剣な表情で聞き入っていた。
「あなたには、溢れるほどの魅力がある。あなたは、そこにいるだけでいいのです」
「そ、そんな……!」
「その魅力を必要とする者たちへ届ける。それこそが、商売の力なのです」
「すごい……! 商売って、そんなに素晴らしいものだったのね!」
「トウモロコシ様の魅力が、世界中に伝わるのですね……!」
二人はすっかり感激していた。
男は、にこやかに笑った。
「私が本当に美しいと思ったのは、あなただけです」
「えっ……!」
「私と共に、世界にあなたの魅力を届けましょう」
場所は変わって中央アジア、ムギとコメが談笑していた。
「最近、ムギちゃん絶好調だよねー!」
「そうか? 君もなかなかではないか」
「えへへー!」
コメとムギは、そんな話をしていた。
そこへ、トウモロコシが現れた。
「ごきげんよう、お二人とも」
いつもとは違う、やけに上品な挨拶だった。
「……トウモロコシちゃん、なんか雰囲気変わった?」
「ふふっ。これからは、私も新しい時代を切り開いていくのよ」
トウモロコシは優雅に髪をかき上げた。
「商売とは、価値の移動から始まるのよ」
「……価値の移動?」
「そう。どれほど素晴らしいものでも、その価値を必要とする者に届けなければ意味がないの。自分の陣営だけで完結していては、勢力は広がらないわ」
トウモロコシは得意げに二人を見た。
「あなたたちには、なかなかない発想でしょう?」
「……ほう」
ムギが興味深そうに目を細めた。
「なるほど。確かに、商売というものは奥が深いな」
「でしょ? ふふふっ!」
トウモロコシは満足そうに笑った。
「ちなみに、こちらがヘルメス様。商売を司る神よ。私に新しい世界を見せてくださったの」
ヘルメスは、何も言わずに微笑んでいた。
「あー! ヘルメス!!」
コメが男の顔を見て、パッと表情を明るくした。
「この前の取引、ありがとうねー!」
「こちらこそ。実に有意義な取引でした」
ヘルメスはにこやかに答えた。
「おかげで私もムギちゃんも好調なんだよー!」
「そうだな。彼の商売の手腕には感謝している」
「……へ?」
トウモロコシはコメとムギを交互に見た。
「……へ?」
もう一度、ヘルメスを見た。
「……へ?」
「ど、どういうことなの……?」
ムギはトウモロコシの顔を見て、何かに気づいたようだった。
「……なるほど。また『君だけだ』とか『君のために』とかいう台詞に騙されたのか?」
「ぐはぁっ!!」
トウモロコシは胸を押さえた。
「い、いや、でも……! ヘルメス様は、私のメガネの魅力を理解してくださったのよ!」
「そうか。それはよかったな」
ムギは淡々と答えた。
「……君は本当に、いつもおめでたいな」
「ぐはぁぁぁぁぁっ!!」
「ちょっとムギちゃん! トウモロコシちゃんが倒れちゃうよー!」
コメが慌てて声を上げた。
「……まったく、面倒くさい女だな」
ムギはため息をついた。
「……本当に、面倒くさい女ね」
コメも呆れたようにつぶやいた。
「聞こえてるわよーーー!!」
トウモロコシは叫んだ。
ムギは、そんなトウモロコシを見ながら口を開いた。
「商売は確かに素晴らしい。価値あるものを、それを必要とする者に届けることができるのだからな」
「そ、そうでしょう!?」
トウモロコシは少しだけ元気を取り戻した。
「しかし、価値の独占や市場の独占を行うことは、誰のためにもならんのだよ」
「……え?」
「自分だけが利益を得ようとすれば、いずれ取引そのものが成り立たなくなる。商売は、関わる者たちが互いに利益を得られるからこそ続くのだ」
「そ、そんな正論、聞きたくなーーーい!!」
トウモロコシは頭を抱えた。
「私が聞きたかったのは、そういう話じゃないのよーーー!!」
「……面倒くさい女だな」
「……本当にねー」
コメとムギは、そろってため息をついた。
こうして、猿たちの間で行われていた商売。
その流れに乗り、穀物たちも全世界へと広がっていった。
そして、それぞれの地域で、さらにその支配を強めていったのである。




