第十一話 麺大将軍
アジア一帯に、着実に勢力を伸ばしている者たちがいた。
あわ・きび連合である。
コメやムギほどの勢力はないものの、彼らは現地の猿たちに食されることで、少しずつ力を蓄えていた。
そして、その勢力拡大を支える大きな原動力となっていたのが、麺大将軍であった。
麺大将軍の圧倒的な力により、あわ・きび連合はコメやムギにも対抗できるほどの勢力となりつつあった。
そんなある日。
コメ、ムギ、トウモロコシの三人が、お茶会を開いていた。
「そうそう。今日は特別ゲストに来てもらったんだ」
ムギがそう言うと、コメとトウモロコシは顔を見合わせた。
「特別ゲスト?」
「誰かしら?」
「入ってきてくれ」
ムギの呼びかけに応じて、部屋に一人の男が入ってきた。
「いやぁ、お招きいただきありがとうございます!」
「まあ! あなたが麺大将軍なのね!」
「私も一度、お話ししてみたいと思っていたのよ」
コメとトウモロコシは、興味津々といった様子で麺大将軍を見つめた。
「私も! あなたの力には興味があったの!」
「いやぁ、これは光栄ですな!」
ムギがふと尋ねた。
「ところで、今日はどうして来てくれたんだ?」
「それはもちろん、美味しい酒が飲めると聞いたからです!」
「……え?」
「……そういうこと?」
二人が思わず顔を見合わせる。
「いやぁ、宴会くらいならいいでしょう!」
「いいのかなぁ……?」
コメが首をかしげる横で、ムギは涼しい顔をしていた。
「まあ、今日は無礼講だ。好きに飲んでくれ」
「おお! ムギ殿、話がわかる!」
こうして宴会が始まった。
「もう一杯いかがですか?」
日本酒が酒を勧める。
「いただきますぞぉ!」
「こちらもどうぞ!」
今度はビールが酒を差し出した。
「おおっ、これも美味い!」
「私の酒もぜひ!」
チチャまで加わり、麺大将軍は次々と酒を飲み干していった。
そして、しばらくすると――。
「いやぁ~、今日は最高ですなぁ~!」
麺大将軍はすっかり酔っ払っていた。
「……完全に酔っ払ってるわね」
コメが呆れたようにつぶやく。
「飲みすぎじゃないかしら……」
トウモロコシも心配そうに見つめた。
しかし、麺大将軍はまったく気にしていない。
「皆様! 今日はお招きいただいたお礼に、何かして差し上げましょう!」
「ほう。何をしてくれるんだ?」
ムギが興味深そうに尋ねる。
「なんなら、私の分身を皆様に貸して差し上げましょう!」
「……えっ?」
コメが目を丸くした。
「分身を?」
トウモロコシも驚いて聞き返す。
「ええ! 遠慮はいりませんぞぉ!」
「ちょ、ちょっと待って! そんなこと勝手に決めていいの!?」
「はっはっは! 宴会の席で、細かいことは気にしなさんな!」
ムギとトウモロコシは、何とも言えない顔で麺大将軍を見つめていた。
「この人、絶対に明日後悔するやつじゃない!!」
コメの叫びも、酔っ払いには届かなかった。
そして、数年後。
コメ陣営に、新たな武将が誕生していた。
「私はビーフン。コメ様のお力と、麺大将軍の分身から生まれた武将です」
ビーフン将軍。
米粉から作られる麺の武将である。
それはすなわち、麺大将軍があわ・きび連合を裏切り、コメ陣営にまで力を貸した証拠でもあった。
「ふっふっふ……ついに来たわね!」
コメは満足げに笑った。
「コメ様、ずいぶんとご機嫌ですね」
白飯が声をかける。
「当然よ! 見なさい、このビーフン将軍を! 麺大将軍も、ようやく私の魅力がわかったということね!」
「……お酒の席で約束しただけだと思いますが」
「細かいことはいいの!」
コメは意気揚々とトウモロコシのもとへ向かった。
「トウモロコシ! 見て見て! 私のところに、新しい武将が来たのよ!」
「……ビーフン将軍?」
「そう! 米粉から生まれた麺の武将よ!」
トウモロコシはビーフン将軍を見つめたあと、黙り込んだ。
「ふふん! やはり、麺大将軍も私の美しさがわかってくれたのね!」
コメは得意げに胸を張った。
「なっ……!?」
「私の魅力に気づくなんて、なかなか見る目があるじゃない!」
「くっ……! あんな男、メガネ萌えの素晴らしさもわからない、くだらない男よ!」
「ええっ!? そこ!?」
「そうよ! メガネ萌えこそ正義! それがわからない男に、麺大将軍を名乗る資格なんてないわ!」
「いや、麺大将軍はメガネ大将軍じゃないんだけど!?」
「うるさいわね!!」
二人が言い争っていると、後ろから声がした。
「……まったく、騒がしいな」
振り返ると、ムギが一人の男を連れて立っていた。
「……え?」
コメは目を丸くした。
ムギの隣に立つ男は、ムギよりもさらに背が高い。鍛え上げられたような体格で、見るからに強そうな雰囲気を漂わせていた。
「な、なに、その隣のでかいの!?」
「紹介しよう。こちらはパスタ大将軍だ」
「お初にお目にかかります。パスタ大将軍と申します」
「パスタ大将軍!?」
コメが驚きの声を上げた。
「麺大将軍の分身から生まれた武将だ。いや、大将軍と言うべきかな」
「な、なんでそっちは大将軍なのよ!?」
「さあ? 生まれたときから大将軍だったのだから、仕方ないだろう」
「こっちのビーフンは将軍なのにーーー!!」
「……肩書きに不満があるのですか、コメ様」
白飯が呆れたように尋ねる。
「あるわよ!! せっかく新しい武将が誕生したのに、いきなり格上が出てきたのよ!?」
「別に、肩書きで競っているわけではないだろう?」
「だったら、なんで大将軍なのよーーー!!」
トウモロコシは、そんなコメを見て笑った。
「……ふふっ」
「ちょっと! そこで笑わないでよ、トウモロコシ!」
「いえ、別に? メガネ萌えもわからない男のことを思い出していただけよ」
「まだ言ってるの!?」
「……本当に騒がしいな」
ムギは小さくため息をついた。
こうして麺大将軍は、あわ・きび連合の勢力拡大に貢献した力を、コメとムギにも分け与えることとなった。
これが麺大将軍の裏切りだったのか、それとも単なる酒の席での約束だったのか。
その答えは、今も定かではない。




