第十話 日の本防衛戦
酒によるムギ領土への侵攻は叶わなかったが、東アジアでの支持率は相変わらず高く、コメ軍の一強となっていた。
そして、その一角を担う日の本でも、コメは絶好調であった。
「ふんふふーん♪ ふふふーん♪」
コメはご機嫌だった。
東アジアでは大人気。日の本でも稲作は順調。
この調子なら、いつか世界を統一する日も夢ではない。
「ふふふーん♪ 今日は、あのおばさ……」
そこまで言って、コメはハッと口を押さえた。
「……いや、アマテラス様にご挨拶でも行こうかしら!」
以前、うっかり「おばさん」と呼んでしまい、ひどい目に遭った相手である。
さすがのコメも、少しは学習したらしい。
「うんうん! 私ってば、ちゃんと成長してるわね!」
「コメ様。独り言が全部聞こえておりますよ」
白飯が、いつもの冷静な声で指摘した。
「えっ!? うそっ!?」
「本当です」
「……ま、まあいいわ! 今日はちゃんとご挨拶するんだから!」
コメは胸を張ると、意気揚々とアマテラスのもとへ向かった。
日の本、アマテラスの邸宅の前。
「……ん?」
コメは、ふと足を止めた。
邸宅の中から、何やら楽しげな声が聞こえてくる。
笑い声に、賑やかな話し声。そして、宴会でもしているかのような楽しげな雰囲気。
「……何かしら?」
コメは首を傾げた。
「アマテラス様、お客様でもいらっしゃるのでしょうか?」
白飯も不思議そうに邸宅を見上げた。
「さあ? でも、ずいぶん楽しそうですね」
「ふーん……」
コメは少し考えたあと、にっこりと笑った。
「ま、いっか! お邪魔しまーす!」
「コメ様、もう少し礼儀というものを……!」
白飯の制止もむなしく、コメは邸宅の中へと入っていった。
中に入ったコメと白飯が目にしたのは、思いもよらない光景だった。
ムギ、トウモロコシ、ビール、チチャ。
そして、彼女たちの中心には、楽しそうに酒を飲むアマテラスの姿があった。
ビールとチチャは、それぞれアマテラスのそばに控え、酒を注いでいる。
「これは美味いな! こちらもなかなか……うむ、実に素晴らしい!」
アマテラスは上機嫌だった。
ムギとトウモロコシも、楽しげに笑っている。
「な、な、な、な、な、な、なにをしてるのよーーー!?」
コメの絶叫が、宴席に響き渡った。
全員が一斉に振り返る。
アマテラスはコメの顔を見るなり、すっと笑みを消した。
「……なんだ、お前らか」
「なんだ、じゃないわよ!!」
コメはずかずかと宴席に近づいた。
「なんでムギちゃんとトウモロコシがここにいるのよ!? しかも、なんで宴会なんかしてるの!?」
「見ればわかるだろう。宴会だ」
ムギが涼しい顔で答えた。
「そういうことを聞いてるんじゃなーーーい!!」
コメの叫びが、再び邸宅に響き渡った。
アマテラスは、じろりとコメを睨んだ。
「ところで、お前……先ほど、また私をオバサンと言ったな?」
「ぐっ!」
コメの動きが止まった。
「な、なんでわかるのーーー!?」
「アンケート機能の応用だ」
「まだそれ使ってるの!?」
「当然だ。二度も同じ失礼を働くとは、まったく反省していないようだな……!」
アマテラスの額に青筋が浮かんだ。
「ち、違うの! 今のは言いかけただけで……!」
「言いかけた時点で同じだろうが!!」
「ひぃぃぃ!!」
アマテラスは、ムギたちに目を向けた。
「そういえば、ムギ君たちはコメたちと知り合いだったのか?」
「ああ。コメ君とは以前から面識があるよ」
「ほう、そうだったのか」
アマテラスはコメをちらりと見た。
「そういえば、こいつは初対面で私をオバサン呼ばわりしたのだ」
「ぐっ!」
コメがうめいた。
「しかも、その後もことあるごとにオバサンとバカにしてくる。まったく、失礼にもほどがあるだろう」
アマテラスは不機嫌そうに酒をあおった。
「な、なんでそんな昔のことまで言うのよぉ……!」
「忘れるわけがあるか!!」
「ひぃっ!」
そのやり取りを聞いていたムギが、突然立ち上がった。
「な、なんだと!?」
珍しく、ムギが激昂していた。
「アマテラス様は絶世の美女! 我々の領地なら、美の女神として崇められるほどのお方だぞ!」
「えっ……?」
コメがぽかんと口を開けた。
ムギはアマテラスを振り返り、力強く両手を広げた。
「それをオバサン呼ばわりとは……! どう見ても……どう見ても……!」
ムギは拳を握りしめ、叫んだ。
「お姉さんだーーー!!」
「そうだろう、ムギ君!」
アマテラスが満足そうにうなずいた。
「ええ! まったくもって、その通りです!」
二人は固い握手を交わした。
「なんなのよ、この二人ぃぃぃ!!」
コメの悲鳴が、宴席に響き渡った。
こうして、アマテラスとムギは意気投合した。
トウモロコシも加わり、宴席はさらに賑やかになった。
酒を酌み交わし、互いの領地の話をし、笑い合う三柱の神々。
その光景を見た者たちは、こう考えた。
アマテラスとムギが手を結べば、日の本もまた、ムギの軍門に下ることになるのではないか。
そうなれば、東アジアにおけるコメの勢力は衰退する。
世界統一を目指すコメにとって、これはまさに一大事であった。
そして、コメの天下は終わりを告げる――
と思われたが。
ここで、アンケート結果が発表された。
『麦も美味しいけど、幼児体型にはかなわないよね!』
『お姉さんもいいけど、最後は妹キャラに戻るよね!』
『幼児体型サイコー!!』
「…………」
その場にいた全員が、頭を抱えた。
誰一人、何も言わなかった。
こうして、ムギたちによる日の本侵攻は、かろうじて失敗に終わった。
その理由が幼児体型だったかどうかについては、諸説あるという。




