SS 第4話 先生攻略大作戦
洋服選びを終えた三人は、近くの喫茶店で一息ついていた。
テーブルの上には紅茶とケーキ。
セリーヌは、新しく買った服の入った紙袋を大切そうに抱えている。
「……本当に先生、喜んでくれるでしょうか」
少し不安そうに呟く。
リリアは優しく微笑んだ。
「きっと大丈夫ですよ」
「今までとは雰囲気も変わりますし」
しかし、リュカは腕を組んだまま首を横へ振る。
「いや」
「服だけじゃ駄目だ」
「えっ?」
セリーヌが首を傾げる。
リュカは真剣な顔で立ち上がった。
「まずはこうだ」
「今日は暑いですね〜」
手で顔をぱたぱたと仰ぐ。
「その勢いで、胸元もこうやってぱたぱたするんだ」
「男は小悪魔に弱い」
「セリーヌよ」
「小悪魔になれ」
一瞬。
時が止まる。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
セリーヌは耳まで真っ赤になった。
「む、無理です!!」
「先生相手にそんなことできません!!」
リリアは冷たい目で兄を見る。
「兄さん」
「それ……」
「兄さんの性癖なのでは?」
「ち、違う!」
リュカは慌てて首を振る。
「た、多分!」
「多分なんですか」
リリアは深いため息をついた。
リュカは気を取り直し、懐から一本の葡萄酒を取り出す。
「まだ作戦はある」
「今日はこれを飲ませるんだ」
「酒精を少し強くした葡萄酒だ」
「色々大変なことが終わったから、今日は特別ですって理由を付ければ自然だろ」
セリーヌは困ったように首を振る。
「えっ……」
「流石にそこまでは……」
リュカは力説する。
「あの先生は、ここまでしなきゃ駄目なんだ!」
「男なんだから、お酒が入れば少しは素直になるかもしれない!」
リリアは無言で葡萄酒を取り上げた。
「却下です」
「えぇっ!?」
「先生をお酒の力でどうこうしようなんて駄目です」
「そんな恋愛、セリーヌも先生も望んでいません」
リュカは肩を落とした。
「そうかぁ……」
「名案だと思ったんだけどなぁ……」
リリアは苦笑する。
「それに先生ですよ?」
「お酒を飲んでも、たぶん何も変わりません」
三人は想像してみる。
『セリーヌ』
『少し酔ったみたいだな』
『今日はもう休みなさい』
『毛布を持ってこよう』
「…………」
リュカは額を押さえた。
「確かに」
「先生なら言いそうだ」
セリーヌも思わず笑ってしまう。
「そうですね」
「先生らしいです」
リュカは腕を組み、少し考え込んだ。
「お酒が駄目なら仕方ない」
一呼吸置く。
「最終奥義だ」
「さ、最終奥義?」
セリーヌがごくりと息を呑む。
リュカは真剣な表情で宣言した。
「ボディタッチだ」
一瞬。
再び時が止まる。
「…………」
「…………」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
本日最大の悲鳴が喫茶店へ響いた。
「む、無理です!!」
「先生に触るなんて無理ですぅぅぅ!!」
リュカは真顔のまま続ける。
「肩が少し触れるくらいでいい」
「袖を掴むのもありだ」
「さりげなく腕に触れる」
「これが決め手だ」
リリアはじっと兄を見つめる。
「兄さん」
「はい」
「さっきから変なことばっかり言ってますけど……」
「ひょっとして私に隠れて、変なお店とか行ってませんよね?」
リュカはぎくりと肩を震わせた。
「い、いや!」
「行ってないよ!」
リリアは兄の目をじっと見つめる。
「本当ですか?」
「ほ、本当だ!」
「怪しいですね」
一歩前へ詰め寄る。
「帰ったら、じっくり尋問しますので」
「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
リュカは思わず立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待て!」
「本当に行ってない!」
「誤解だ!」
リリアはにっこりと微笑んだ。
「その言葉が本当かどうかは、家でゆっくり聞かせてもらいます」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
頭を抱えて絶叫するリュカ。
その姿を見て、セリーヌは思わず吹き出した。
「あははっ!」
リリアも堪え切れず笑みを零す。
「兄さんは放っておくと、すぐ変な方向へ暴走するんですから」
「うぅ……」
「俺はただ、セリーヌを応援したかっただけなんだ……」
肩を落とすリュカ。
三人の笑い声は喫茶店いっぱいに響き渡った。
こうして先生攻略作戦は、今日も一歩も前へ進まないまま幕を閉じるのだった。




