SS 第2話 恋愛作戦会議
翌日。
魔剣流道場。
昼下がり。
リュカとリリアが遊びに来ていた。
アデラーンは薪割りを終え、村へ買い出しに出掛けている。
道場には三人だけ。
セリーヌがお茶を淹れ、縁側でのんびりとくつろいでいた。
他愛もない話をしていると、不意にリュカが真面目な表情になる。
「セリーヌ」
「先生との進展は?」
その一言で、セリーヌの肩がぴくりと震えた。
「……ありません」
「デートに誘っても駄目です」
「好きって伝えても娘扱いです……」
机へ突っ伏す。
「先生、鈍感すぎます……」
リリアも苦笑しながら頷いた。
「ここまで鈍感な方も珍しいですね」
リュカは腕を組み、小さく息を吐く。
「だったら、違うアプローチでいくしかない」
「違うアプローチ?」
セリーヌが顔を上げる。
リュカは真剣な表情のまま言った。
「ぶっちゃけセリーヌ」
「お前は、男の俺から見てもかなり魅力的だと思うぞ」
セリーヌは目を丸くする。
「えっ?」
すると隣にいたリリアが勢いよく立ち上がった。
「兄さん!」
「何を口説いてるんですか!」
「違う違う」
リュカは慌てて両手を振る。
「そういう意味じゃない」
「客観的な話だ」
「先生しか見えていないから自覚がないだけで、セリーヌは十分魅力的だってことだ」
セリーヌは少し考え込んだ。
「……そう言われれば」
「先生に夢中で忘れていました」
二人が首を傾げる。
セリーヌは少し懐かしそうに笑った。
「先生が魔王討伐へ向かわれた三年間」
「少しでも先生のお力になりたくて、魔物を減らそうと思い冒険者になったんです」
「その頃は……」
「いろんな男性から声を掛けられました」
「一緒に依頼へ行こうとか」
「食事へ行こうとか」
「告白されたこともあります」
リュカが思わず口を開く。
「ほら見ろ」
「やっぱりモテてるじゃないか」
セリーヌは照れくさそうに笑った。
「でも、その頃から先生のことしか見えていませんでしたから」
「全部お断りしました」
リリアは思わず笑ってしまう。
「先生一筋ですね」
リュカも肩を竦めた。
「重症だな」
三人は思わず笑い合った。
やがてリュカが改めて口を開く。
「セリーヌ」
「お前、冒険者だった頃からずっと動きやすい服ばかり着てるだろ」
「え?」
「今も修練着ばかりだ」
リリアも頷く。
「確かに」
「女性らしい服を着たセリーヌなんて、私もほとんど見たことがありません」
セリーヌは自分の服を見下ろした。
「そう……ですか?」
リリアは微笑む。
「服を変えれば、先生も見る目が変わるかもしれませんよ」
セリーヌの頬が少し赤くなる。
「見る目が……変わる……」
リュカは力強く頷いた。
「そうだ」
「だったら答えは一つ」
一呼吸置く。
「色仕掛けだ」
一瞬。
時間が止まる。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
セリーヌの悲鳴が道場中へ響き渡った。
「む、無理です!!」
「そんなこと私にはできません!!」
リリアは笑顔で立ち上がる。
「そうと決まれば、お買い物へ行きましょう」
「可愛いお洋服を選びます」
「えぇぇぇぇ!?」
セリーヌは真っ赤になって両手をぶんぶん振る。
「先生に見せる服なんて考えたことありません!」
リュカはにやりと笑った。
「大丈夫だ」
「恋愛作戦は俺たちに任せろ」
するとリリアが呆れたように兄を見る。
「兄さん」
「偉そうに言ってますけど……」
「兄さんも恋人いませんよね?」
「…………」
リュカはそっと目を逸らした。
その様子にセリーヌは思わず吹き出してしまう。
「あははっ!」
道場には久しぶりに、穏やかな笑い声が響き渡った。
こうして三人は、先生攻略作戦第一弾――『服選び作戦』を決行することになったのだった。




