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第87話 竜王への返礼

 謁見の間は静寂に包まれていた。


 翠竜王エメリオは、震える手で竜鱗を模した金細工を受け取る。


 その小さな輝きを、まるで壊れ物を扱うように両手で包み込んだ。


「……兄様」


 その一言に、長年胸へ秘めてきた想いが滲む。


 隣では、王妃リシェルも静かに涙を流していた。


「あなた……」


「レオニス兄様が……」


「こんなにも綺麗になって帰ってきたのですね……」


 誰も言葉を挟まない。


 静かな時間だけが流れていく。


 レオニス第一王子。


 彼は、生きとし生けるものを守るため、たった一人で魔王討伐へ向かった。


 その願いは叶わず、この世を去った。


 だが、その生き様は決して無駄ではなかった。


 逆鱗はオリハルコンの剣となり、人々を守り続けている。


 そして、最後に残された僅かな端材は、竜鱗を模した金細工となって、今、故郷へ帰ってきた。


 エメリオは金細工を胸へ抱き寄せ、静かに目を閉じる。


「兄様……」


「お帰りなさい」


 その言葉は、亡き兄へ捧げる何より温かな返礼だった。


 アデラーンもまた、腰に佩いたオリハルコンの剣へ静かに視線を落とす。


「……レオニス」


「お前の想いは、これからも俺たちが受け継いでいく」


 剣は何も語らない。


 それでも翡翠色の刀身は、どこか優しく輝いているように見えた。


 兄の形見は、人々を守る剣となった。


 最後の端材は、故郷へ帰った。


 竜と人。


 二つの種族を結ぶ、小さな贈り物。


 それは互いを信じ合った証であり、未来へ受け継がれていく絆でもあった。


 その後、アデラーンたちはエメリオ、リシェル、そしてグランへ別れを告げる。


「また来てくれ」


 グランは笑顔で右手を差し出した。


 アデラーンは力強くその手を握り返す。


「ああ」


「必ず」


 セリーヌ、リュカ、リリアも深く一礼する。


「ありがとうございました!」


 エメリオは穏やかに微笑んだ。


「いつでも帰ってきなさい」


「この国は、君たちの友でもあるのだから」


 一行は静かに踵を返し、王城を後にした。


 その背中を、エメリオ、リシェル、グランはいつまでも見送っていた。


 やがて四人の姿が城門の向こうへ消えていく。


 青く澄み渡る空。


 竜王国を優しい風が吹き抜ける。


 その風はまるで――


 ようやく故郷へ帰ることができたレオニスを、静かに祝福しているかのようだった。

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