第77話 魔眼獅子
四体の実験魔物、最後の一体。
魔眼獅子。
漆黒の鬣を持つ巨大な黒獅子。
真紅に染まった双眸は禍々しい魔力を宿し、その視線だけで周囲の空気を震わせる。
地を蹴るたび、地下空間が揺れた。
セリーヌが思わず息を呑む。
「すごい威圧感……」
リュカも表情を引き締める。
「まだこんな化け物が……」
その時だった。
アーサーが一歩前へ出る。
剣を肩に担ぎ、穏やかに笑う。
「私も、いいところを見せないとね」
その余裕ある一言に、セリーヌたちは思わず顔を見合わせた。
魔眼獅子は低く唸ると、一瞬で間合いを詰める。
速い。
巨体からは想像もできない速度だった。
鋭い爪が振り下ろされる。
しかし。
アーサーは半歩だけ身体をずらし、紙一重で躱した。
「なるほど」
「災害級の魔物というのも頷ける」
魔眼獅子は咆哮を上げる。
禍々しい魔力が地下空間を満たした。
それでもアーサーの表情は変わらない。
静かに剣を構える。
「では――」
眩い光が刀身を包み込む。
「光魔法剣」
神々しい光が地下を照らした。
その輝きに、魔眼獅子は思わず怯む。
アーサーは静かに踏み込む。
「これで終わりだ」
一閃。
白銀の光が一直線に駆け抜けた。
一瞬だった。
魔眼獅子の巨体は、眩い光に包まれる。
次の瞬間。
轟音とともに、その身体は粉々に砕け散った。
黒い粒子となって消え去り、その場には黒い魔素袋だけが残される。
静寂。
アーサーは静かに剣を納めた。
「こんなものかな」
その姿を見たセリーヌは、思わず目を輝かせる。
「すごい……」
リュカも思わず息を吐く。
「一撃で……」
リリアは小さく呟いた。
「これが、王国騎士団長……」
アデラーンは静かに微笑む。
「当然だ」
「アーサーは、三年前に魔王討伐隊の一員として戦い抜いた男だからな」
聖騎士アーサー。
王国騎士団長。
その実力は、決して肩書きだけではなかった。
地下空間には、最後の敵を討ち果たした静かな余韻だけが残っていた。




