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第76話 鋼殻巨蟹

 四体の実験魔物の一体。


 鋼殻巨蟹(アイアン・クラブ)


 人の三倍はあろうかという巨大な蟹。


 全身を覆う鋼鉄の甲殻は、まるで城壁。


 巨大な鋏は岩盤すら容易く切断し、一撃ごとに地面を砕く。


「こいつは私たちが引き受けます!」


 リリアが一歩前へ出る。


 リュカも剣を抜き、隣へ並んだ。


「任せてください、先生」


 アデラーンは静かに頷く。


「ああ」


「行ってこい」


 二人は同時に地を蹴った。


 左右へ大きく展開し、鋼殻巨蟹を挟み込む。


 鋭い斬撃。


 だが――。


 ガギィン!!


 火花が散る。


 刃は甲殻に弾かれ、傷一つ付かない。


「硬い!」


 リュカが顔をしかめる。


 リリアも死角から斬り込む。


 しかし結果は同じだった。


 鋼殻巨蟹は巨大な鋏を振り上げる。


 轟音。


 二人は軽やかに跳び退き、間一髪で回避した。


「普通に斬っても通りません!」


 リリアが叫ぶ。


 リュカは巨大な甲殻を見据え、小さく笑った。


「ああ」


「だったら壊すしかねえ」


 二人は静かに剣を構える。


「暗黒剣」


 漆黒の魔力が刀身を包み込む。


 そして。


 二人は再び駆け出した。


 その足運びは、まるで舞。


 グランツ流で磨き上げた流麗な体捌き。


 右へ。


 左へ。


 前へ。


 後ろへ。


 軽やかに舞うような動きに、鋼殻巨蟹は完全に翻弄される。


 巨大な鋏は空を切り続けた。


 その隙を逃さない。


 一撃。


 また一撃。


 さらに一撃。


 二人は示し合わせたように、寸分違わず同じ一点だけを斬り続ける。


 暗黒剣を纏った斬撃が、何度も同じ場所へ叩き込まれた。


 やがて――。


 ピシッ。


 甲殻に小さな亀裂が走る。


 リリアが目を見開いた。


「ヒビが入りました!」


 リュカは力強く頷く。


「決めるぞ!」


「はい!」


 二人は同時に踏み込む。


「「はああああっ!!」」


 二本の剣が、亀裂へ向かって同時に振り下ろされた。


 轟音。


 幾度となく叩き込まれた暗黒剣によって生まれた亀裂は、ついに限界を迎える。


 鋼鉄の甲殻が砕け散った。


「今です!」


「終わりだ!」


 砕けた甲殻の奥深くへ、二人は渾身の一撃を叩き込む。


 鋼殻巨蟹は断末魔を上げながら崩れ落ちる。


 やがて巨体は黒い粒子となって崩れ去り、その場には黒い魔素袋だけが静かに残されていた。


 静寂が訪れる。


 リュカは剣を肩へ担ぎ、満足そうに笑った。


「やったな」


 リリアも嬉しそうに微笑む。


「はい!」


「私たちだけで倒せました!」


 少し離れた場所で戦いを見届けていたアデラーンは、静かに頷いた。


「見事だ」


「力任せではなく、相手を見極め、弱点を突く」


「それこそが魔剣流だ」


 二人は姿勢を正す。


「ありがとうございます!」


 師の言葉に、リュカとリリアは顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。


 魔剣流師範代。


 その名に恥じぬ実力を、二人は己の剣で証明したのだった。

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