第74話 魔将鬼
重々しい足音が地下空間を揺らす。
四メートルを超える漆黒の鬼――
魔将鬼。
ジェネラルオーガを遥かに凌ぐ膂力。
その全身には濃密な魔力が渦巻いていた。
「こいつは俺がやる」
アデラーンは静かに一歩前へ出る。
巨大な戦斧が唸りを上げる。
轟音。
床石が砕け散った。
アデラーンは紙一重で躱し、漆黒の魔力を剣へ纏わせる。
「暗黒」
斬撃が魔将鬼を捉える。
しかし。
刃は皮膚を浅く裂いただけだった。
「硬い……!」
続けて放つ。
「暗黒剣」
漆黒の斬撃が魔将鬼を切り裂く。
それでも致命傷には至らない。
魔将鬼は咆哮を上げ、さらに凄まじい勢いで襲い掛かる。
アデラーンは静かに剣を構え直した。
「ならば――」
全身の魔力が一気に解放される。
禍々しい闇がオリハルコンの刀身を包み込んだ。
「暗黒魔剣」
地下空間を震わせるほどの膨大な魔力。
かつて長年連れ添った黒曜鉄の剣なら、この力には耐え切れず砕け散っていただろう。
だが、この剣は違う。
翠竜王陛下が託してくださった、亡き第一王子レオニス殿下の形見――逆鱗。
その尊き形見から鍛え上げられた、世界にただ一振りのオリハルコンの剣。
どれほど膨大な魔力を流し込んでも、その刀身は微動だにしない。
まるで、レオニス殿下の想いが、この剣を支えてくれているかのようだった。
(レオニス殿下)
(翠竜王陛下、翠竜王妃陛下)
(あなた方から託されたこの剣)
(必ず、人々を護るために振るいます)
感謝を胸に、アデラーンは踏み込む。
「はあああああっ!!」
すべてを乗せた漆黒の一閃。
暗黒魔剣は魔将鬼の巨体を真っ二つに斬り裂いた。
断末魔が地下空間に響き渡る。
やがて巨体は崩れ落ち、黒い魔石だけを残して消滅した。
アデラーンは静かに剣を鞘へ納める。
「……ありがとう」
その小さな呟きは、亡き第一王子レオニスと、その形見を託してくれた翠竜王夫妻への、心からの感謝だった。




