第72話 家宅捜索
翌朝。
王国騎士団は、正式に発行された捜索令状を手に、王都最大級の慈善商会――オルフェ商会本部を包囲していた。
指揮を執るのは王国騎士団長アーサー。
その傍らにはアデラーン、セリーヌ。
さらに魔剣流師範代のリュカ、リリアも参戦している。
静まり返った朝の王都。
アーサーは静かに右手を上げた。
「全隊」
「突入!」
号令と同時に、騎士たちが一斉に商会へ踏み込む。
突然の家宅捜索に、商会内は騒然となった。
「な、何事ですか!」
「王国騎士団だ!」
「捜索令状に基づく家宅捜索を執行する!」
「誰一人、この建物から出ることは許さん!」
騎士たちは建物内を徹底的に捜索していく。
事務室。
応接室。
倉庫。
金庫室。
次々と押収される帳簿や契約書。
そして――。
「団長!」
「隠し金庫を発見しました!」
壁の奥から現れた巨大な金庫。
中には大量の金貨。
貴金属。
偽名で管理された帳簿。
裏社会との契約書。
死告鳥への送金記録。
表では決して明るみに出ることのない証拠が、次々と押収されていく。
アーサーは静かに頷いた。
「……言い逃れはできんな」
さらに捜索は続く。
「こちらにも隠し通路があります!」
本棚がゆっくりと横へ動く。
その奥には、地下へ続く石階段が姿を現した。
騎士たちは慎重に階段を下りていく。
そこに広がっていたのは、巨大な地下研究施設だった。
無数の魔法陣。
実験器具。
培養槽。
檻へ閉じ込められた魔物。
そして棚一面を埋め尽くす研究資料。
押収された資料には、信じ難い内容が記されていた。
魔物生成実験。
人為的な魔素汚染。
魔素暴走実験。
魔王因子製造計画。
人命を顧みない、数々の非人道的研究。
セリーヌは思わず顔をしかめる。
「こんなことを……」
リリアも言葉を失う。
「人間のやることじゃありません……」
その時だった。
「団長!」
「地下最深部へ続く通路に人影です!」
報告を受けた全員が振り返る。
薄暗い通路の奥。
一人の男が地下最深部へ向かって走り去っていく姿が見えた。
アーサーは即座に判断を下す。
「証拠品の押収、研究資料の保全、施設の制圧は他の者に任せる!」
「我々は黒幕を追う!」
「はっ!」
騎士たちは一斉に敬礼し、それぞれの任務へ散っていく。
アーサーはアデラーンたちへ視線を向けた。
「アデラーン」
「セリーヌ」
「リュカ、リリア」
「君たちは私と来てくれ」
アデラーンは静かに頷く。
「承知した」
セリーヌは剣を握り直した。
「はい!」
リュカは不敵に笑う。
「ようやく黒幕のお出ましか」
リリアも静かに頷く。
「必ず捕まえましょう」
五人は迷うことなく地下最深部への通路を駆け出した。
その頃。
地下最深部では、一人の男が足早に通路を進んでいた。
オルフェ商会会長――ヴァレリウス・オルフェ。
背後から迫る足音を聞きながらも、その口元には不気味な笑みが浮かぶ。
「ここまで辿り着くとはな……」
「だが、まだ終わりではない」
「すべては、人類の進歩のためだ」
重厚な鉄扉が、ゆっくりと閉ざされる。
その先には、誰にも知られてはならない最後の研究。
そして、人類の未来を変えると信じて疑わない最高傑作が眠っていた。
王国を揺るがす陰謀は、ついに最終局面へと突入する。




