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第4話 木剣を握る日

 魔剣流道場へ来て、一週間ほどが過ぎた。


 最初こそ泣いてばかりいたセリーヌだったが、少しずつ笑顔を見せるようになっていた。


 そんなある朝。


 セリーヌは縁側へ腰を下ろし、道場で稽古をするアデラーンをじっと見つめていた。


 静かな朝だった。


 小鳥のさえずりだけが聞こえる。


 道場には木剣が風を切る音だけが響いていた。


「はっ」


 一歩踏み込む。


 全身を連動させ、木剣を振り下ろす。


 魔剣流。


 一の剣――崩剣。


 無駄のない、美しい一太刀だった。


 何度見ても飽きない。


 幼いセリーヌは目を輝かせながら、その姿を見つめ続けていた。


 やがて稽古を終えたアデラーンが汗を拭きながら振り返る。


「どうした」


 セリーヌは少しだけ照れながら口を開く。


「先生」


「私も……先生みたいに強くなりたい」


 その一言に、アデラーンは少し驚いたような表情を浮かべた。


「剣は遊びじゃない」


「毎日鍛錬だ」


「痛い思いもする」


「それでもやるか」


 セリーヌは迷わず頷く。


「うん」


「先生みたいになりたい」


 真っ直ぐな瞳だった。


 アデラーンは静かに笑みを浮かべる。


「そうか」


 壁へ歩み寄ると、小さな木剣を一本手に取る。


 幼い子どもでも扱えるように作られた木剣だった。


「受け取れ」


 セリーヌは両手で大切そうに受け取る。


 生まれて初めて握る木剣。


 思っていたより重たかった。


「今日から、お前は魔剣流の門下生だ」


 その言葉に、セリーヌは嬉しそうに笑った。


 アデラーンは道場の中央へ歩いていく。


「まず覚えるのは剣じゃない」


「礼だ」


 そう言って深く一礼する。


「師へ礼」


「相手へ礼」


「剣へ礼」


「そして、この道場へ礼」


「魔剣流は礼を忘れない」


 セリーヌも慌てて真似をする。


 ぎこちない礼だった。


 それでもアデラーンは優しく頷いた。


「よし」


「次は構えだ」


 木剣を正眼へ構える。


「肩の力を抜け」


「剣は腕で振るものじゃない」


「身体全体で振る」


 セリーヌも必死に真似をする。


 しかし木剣はふらふら揺れ、腕も小刻みに震えていた。


「む、難しい……」


「最初は皆そうだ」


 アデラーンは木剣へ軽く手を添え、正しい位置へ直してやる。


「そうだ」


「目は相手から離すな」


「はい!」


 元気よく返事をする。


 その姿に、アデラーンは自然と笑みを浮かべていた。


「最後は素振りだ」


「今日は五十本」


「五十本?」


 セリーヌは思わず目を丸くする。


「ああ」


「明日も五十本」


「明後日も五十本」


「毎日続ける」


「魔剣流は基本を何より重んじる」


「基本を極めた者だけが、型を崩すことを許される」


 セリーヌは木剣を握り直した。


「頑張ります!」


 元気いっぱいに振り下ろす。


 ぎこちない一振り。


 しかし、その一太刀には確かな決意が込められていた。


 アデラーンは静かに頷く。


「焦らなくていい」


「一歩ずつ強くなればいい」


「はい!」


 幼い少女の元気な返事が、朝の道場へ響き渡る。


 こうして。


 魔剣流宗家アデラーンと、その弟子セリーヌ。


 二人の師弟としての日々が、静かに始まったのであった。

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