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第66話 毒刃

 裏路地を包む空気が一変する。


 アデラーンの放つ気迫に、二人の暗殺者は一瞬だけ動きを止めた。


「……撤退だ」


 一人が短く告げる。


 次の瞬間、二人は左右へ散開し、一斉に駆け出した。


「逃がさん」


 アデラーンは地を蹴る。


 一瞬で間合いを詰め、逃走する暗殺者の一人へ斬り掛かった。


 キィンッ!!


 暗殺者は辛うじて受け止める。


 しかし、力の差は歴然だった。


 剣を弾き飛ばされ、そのまま地面へ組み伏せられる。


 もう一人は、その隙に夜の闇へ姿を消していた。


 アデラーンは追わない。


 今はセリーヌの命が最優先だった。


「先生……」


 セリーヌの身体が崩れ落ちる。


 アデラーンは素早くその身体を抱き留め、傷口へ目を落とした。


「……毒か」


 肩口に刻まれた浅い傷。


 致命傷ではない。


 それでも身体の痺れ。


 青白い顔色。


 わずか一目で状況を見抜く。


「喋るな」


「毒が回る」


 そこへ騒ぎを聞きつけた王国騎士団が駆け付ける。


 先頭にはアーサーの姿があった。


「アデラーン!」


「セリーヌ君!」


 傷口を見た瞬間、アーサーの表情が引き締まる。


「毒か……」


 静かに右手をかざす。


 掌から柔らかな黄金色の光が溢れ出した。


「――光治癒」


 温かな光がセリーヌの身体を優しく包み込む。


 傷口から黒い靄のような毒が抜け出し、光の中へ溶けるように消えていった。


 やがて傷は塞がり、青白かった顔にも少しずつ血色が戻っていく。


 光治癒。


 光魔法。


 傷を癒やし、毒や呪いさえ浄化する治癒魔法である。


 もちろん、大聖女ミュゲが行使する奇跡には遠く及ばない。


 それでも、一国の騎士団長であるアーサーだからこそ扱える、最高峰の光魔法の一つだった。


 セリーヌはゆっくりと目を開く。


「ありがとうございます……」


 アーサーは安堵の息をついた。


「間に合ってよかった」


 その頃。


 騎士たちは拘束した暗殺者を取り囲んでいた。


「依頼人は誰だ」


「何が目的だ」


 暗殺者は何も答えない。


 静かに笑みを浮かべるだけだった。


 次の瞬間。


 口の中へ何かを放り込む。


「しまっ!」


 騎士が駆け寄る。


 しかし、一歩遅かった。


 暗殺者は苦しげに喉を押さえ、そのまま絶命する。


「自害したのか……」


 アーサーは険しい表情で息を吐いた。


「捕らえられることまで想定していたとはな」


 アデラーンは無言で亡骸を見下ろす。


 その胸元には、一羽の黒い鳥を象った紋章が刻まれていた。


 一人の騎士が青ざめた表情で呟く。


「この紋章は……」


「まさか、『死告鳥』か」


 アーサーは静かに頷く。


「ああ」


「裏社会最悪と恐れられる暗殺者組織だ」


「金さえ積まれれば、相手が誰であろうと依頼を引き受ける」


「そして、捕らえられても依頼人の情報は決して漏らさない」


 セリーヌは静かに紋章を見つめた。


「先生……」


「私たちは、本格的に狙われています」


 アデラーンは小さく頷く。


「ああ」


「だが、奴らを雇った者がいる」


「この事件の黒幕は、必ず別にいる」


 魔物の異変。


 冒険者暗殺事件。


 そして暗殺者組織『死告鳥』。


 すべてが一つの巨大な陰謀へと繋がろうとしていた。

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