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第65話 あの日のように

 ドスッ――。


 黒い短剣が、セリーヌの肩口を浅く切り裂いた。


「っ……!」


 その一瞬の隙を逃さず、正面の暗殺者が剣を振り下ろす。


 キィンッ!!


 辛うじて受け止める。


 しかし、身体が思うように動かない。


「あれ……?」


 足に力が入らない。


 指先の感覚が薄れていく。


 握った剣が、急に鉛のように重くなった。


「毒……」


 背後へ回っていた暗殺者が静かに距離を取る。


 正面の暗殺者も追撃を止め、ゆっくりと剣を構え直した。


「予定通りだ」


「金ランク冒険者だ」


「油断するな」


「毒が回れば終わりだ」


 二人の暗殺者が再びセリーヌを前後から挟み込む。


 セリーヌは震える手で剣を握った。


 まだ戦える。


 そう思う。


 なのに。


 身体が言うことを聞かない。


 視界が霞む。


 膝がゆっくりと崩れ落ちた。


「先生……」


 幼い日の記憶が脳裏をよぎる。


 魔物に襲われ。


 命を諦めかけた、あの日。


 黒い甲冑を纏った一人の剣士が、自分を救ってくれた。


 あの日と同じように。


 今もまた。


 心に浮かぶのは、ただ一人だった。


「先生……」


「ごめんなさい……」


 二人の暗殺者が同時に剣を振り上げる。


 その瞬間だった。


 ギィィィンッ!!


 凄まじい金属音が裏路地へ轟く。


 二人の暗殺者が目を見開いた。


「なっ……!」


 そこに立っていたのは、一人の男。


 翡翠色の刀身が月明かりを受け、静かに輝いている。


 アデラーンだった。


「……買い物が遅いと思って来てみれば」


 静かな声だった。


 しかし、その瞳には抑え切れない怒りが宿っている。


 アデラーンはセリーヌの前へ静かに歩み出る。


 そして翡翠色の剣を構え、暗殺者たちを真っ直ぐ見据えた。


「……俺の弟子に」


「何をしている」


 その一言だけで、裏路地の空気が凍りつく。


 幼い頃。


 魔物から救われた、あの日のように。


 絶望の中で。


 再び師は、セリーヌを護るため、その前へ立っていた。

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