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第64話 死告鳥

 夕暮れ。


 依頼を終えて魔剣流道場へ戻ったアデラーンとセリーヌは、一息ついていた。


「あっ……」


 台所を覗いたセリーヌが、小さく声を漏らす。


「先生、ごめんなさい」


「夕食の食材、切らしてました」


 アデラーンは穏やかに頷く。


「なら、買いに行こう」


 しかしセリーヌは首を横へ振った。


「先生は休んでいてください」


「今日は私が行ってきます」


 買い物籠を手に、道場を後にする。


 夕暮れの商店街は、多くの人々で賑わっていた。


 肉屋。


 八百屋。


 魚屋。


 必要な食材を買い揃え、帰路につく。


 その時だった。


 ――視線。


 誰かに見られている。


 いや。


 見られているだけではない。


 つけられている。


 セリーヌは表情一つ変えず、そのまま歩き続けた。


 金ランク冒険者として培った勘が、静かに警鐘を鳴らす。


(誰か一人……)


(気配の消し方は悪くない)


(でも、先生ほどじゃありませんね)


 相手も、自分が気付かれたことには気付いていない。


 ならば――。


 セリーヌは人気の少ない裏路地へ足を向けた。


 まるで何も気付いていないかのように。


 薄暗い路地へ入った瞬間だった。


 キィンッ!!


 背後から音もなく迫った黒装束の男。


 その凶刃を、セリーヌは振り向きざまに受け止める。


 顔を覆う仮面。


 一切の言葉を発することなく、次々と斬撃を繰り出してくる。


 しかし。


「甘いです」


 セリーヌは冷静にすべてを捌く。


 一歩。


 踏み込む。


 剣閃が走る。


 黒装束の男は、その場へ崩れ落ちた。


「……終わりましたか」


 そう呟いた、その瞬間。


 ゾクリ――。


 全身を駆け抜ける悪寒。


(違う……!)


(まだいる!)


 物陰から一人。


 屋根の上から一人。


 残る二人が静かに姿を現した。


 セリーヌは静かに剣を構え直す。


「最初の一人は囮でしたか」


 黒装束の男たちは初めて口を開く。


「……金ランク冒険者」


「油断するな」


「標的は必ず仕留めろ」


 その胸元には、一羽の黒い鳥を象った紋章が刻まれていた。


 闇社会でその名を知らぬ者はいない。


 暗殺者組織――『死告鳥』。


 二人は同時に地を蹴る。


 一人が正面から鋭く斬り込み、もう一人が背後へ回り込む。


 狭い裏路地では逃げ場はない。


 それでもセリーヌは迷わなかった。


「甘いです」


 正面の暗殺者へ向かって、一気に踏み込む。


 その刹那。


 背後から、もう一人の暗殺者が音もなく毒刃を振り上げた――。

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