第63話 不穏な気配
ガルム討伐を終えたアデラーンとセリーヌは、王都への帰路についていた。
夕暮れの街道を並んで歩きながら、セリーヌがぽつりと呟く。
「先生」
「やっぱり、あのガルム……普通じゃありませんでしたね」
「ああ」
アデラーンは静かに頷いた。
「あれほど濃い魔素を宿した個体は見たことがない」
「魔王討伐後、魔物は減少していくはずだった」
「それが逆に増え始めている」
セリーヌも神妙な表情を浮かべる。
「何かが起きていますね」
やがて王都へ到着する。
しかし、街の空気はどこか張り詰めていた。
鎧姿の騎士たちが慌ただしく行き交い、城門では入念な検問が行われている。
巡回する騎士の数も、以前より明らかに増えていた。
「騎士団まで慌ただしいですね」
「ああ」
二人は冒険者ギルドで依頼達成の報告を済ませる。
すると酒場から、冒険者たちの重苦しい話し声が聞こえてきた。
「またやられたらしいぞ」
「今度は銀ランク冒険者だ」
「しかも一太刀でやられたって話だ」
「何者なんだ……」
セリーヌは思わず足を止める。
「暗殺……ですか?」
受付嬢も沈んだ表情で頷いた。
「ここ最近、王都周辺で冒険者ばかりを狙った暗殺事件が相次いでいるんです」
「被害者は皆、実力者ばかり」
「騎士団も総出で捜査していますが、犯人はまだ捕まっていません」
アデラーンは静かに目を細める。
「魔物の異変」
「冒険者暗殺事件」
「偶然とは思えんな」
胸騒ぎがした。
何か一つ、大きな流れが動いている。
そんな予感が拭えない。
そして、アデラーンの脳裏に浮かんだのは故郷の景色だった。
「ベルフォン村……」
小さく漏れた言葉に、セリーヌが振り向く。
「先生?」
「村は王都から遠くない」
「この異変がさらに広がれば、ベルフォン村も無関係では済まんだろう」
セリーヌは優しく微笑んだ。
「大丈夫です」
「先生が守ろうとしてきた村です」
「私も一緒に守ります」
アデラーンは静かに頷く。
「ああ」
二人はギルドを後にし、夕暮れに染まる王都の街並みを歩き始めた。
その背後で。
誰にも気付かれることなく、一つの黒い影が静かに動き出していた。




