第57話 城下町
今にも激突しかけたアデラーンと翠竜。
その間へ割って入ったのは、一頭の翠竜だった。
翡翠色の巨体が静かに着地する。
「そこまでだ!」
威厳ある声が山中へ響き渡る。
翠竜は人の姿へ戻った。
翠色の鎧を纏った一人の騎士。
「私はシルヴァ=ヴェル竜王国王国騎士団隊長、グランだ」
「たまたまこの辺りを巡回していて助かった」
ほどなくして数頭の翠竜が飛来する。
王国騎士団だった。
「その者の対応は我々に任せてください!」
騎士たちは興奮した青年を取り囲む。
「離してください!」
「レオニス第一王子殿下の仇なんです!」
「落ち着け!」
「竜王陛下のご命令だ!」
青年は悔しそうに拳を握り締めながらも、仲間たちに連れられ、その場を後にした。
グランは改めてアデラーンへ向き直る。
「事情は理解いたしました」
「差し出がましいお願いではございますが、どうかあの青年をお許しください」
「第一王子殿下の死を、今なお受け入れられない民が多いのです」
アデラーンは静かに首を横へ振る。
「いや」
「俺と師は、恨まれて当然のことをした」
「彼の怒りはもっともだ」
「申し訳なかった」
グランは深く一礼した。
「ありがとうございます」
「竜王陛下がお待ちです」
「どうか私にお供ください」
二人はグランの翠竜へ乗り、大空へ舞い上がる。
しばらく飛ぶと、巨大な城壁に囲まれた王都が見えてきた。
翡翠色の森に抱かれた、美しい都。
まるで宝石の都だった。
翠竜は城門前へ静かに降り立つ。
「ここからは徒歩でご案内いたします」
グランを先頭に、一行は王都を歩き始める。
石畳の街路。
木の温もりを活かした美しい建物。
市場には果物や鉱石が並び、人の姿をした竜族たちが穏やかな日常を送っていた。
そこへ。
「人間だ!」
「初めて見た!」
「ローズフィールド王国ってどんな国?」
「人間って空を飛べないって本当?」
好奇心旺盛な竜族たちが次々と集まってくる。
グランは苦笑した。
「申し訳ありません」
「竜族は好奇心旺盛な者が多いもので」
「構わん」
アデラーンが微笑む。
すると人垣の中から、一人の女性が歩み出た。
翡翠色の長い髪。
澄み切った翡翠色の瞳。
同じ女性であるセリーヌでさえ、思わず息を呑むほど美しかった。
「あなたが人間の剣士?」
女性は柔らかく微笑む。
「とても素敵な方ね」
「凛々しくて格好いいわ」
その言葉をきっかけに、他の女性たちも集まってきた。
「本当」
「黒髪も綺麗」
「優しそうなお顔」
「背も高いのね」
「王都を案内してあげたいくらい」
「美味しいお茶のお店もあるのよ」
「今度ぜひ来て」
アデラーンは困ったように頭を掻く。
「そ、そうか」
その様子を見たセリーヌは、むっと頬を膨らませた。
(またですか……)
ふと、アーサーの言葉が脳裏をよぎる。
『でも、モテたのは事実だ』
『魔王討伐の旅でも』
『復興支援で各地を回った時も』
『行く先々の村や町で』
『食事に誘われ』
『贈り物を渡され』
『告白されたことも、一度や二度じゃない』
(本当に……)
(先生って昔からそうだったんですね……)
胸の奥がもやもやする。
「先生!」
セリーヌは勢いよくアデラーンの腕を掴んだ。
「早く行きましょう!」
「ん?」
「どうした」
「なんでもありません!」
半ば引っ張るように歩き出す。
アデラーンは訳が分からず首を傾げるばかりだった。
その後ろ姿を見送る翠竜族の女性たちは、顔を見合わせて微笑む。
「あの娘、可愛い」
「ふふっ」
「嫉妬しちゃってるのかしら?」
「きっとそうね」
温かな笑い声が城下町へ響く。
グランも小さく笑みを浮かべながら言った。
「もうすぐ王城です」
「竜王陛下がお待ちですよ」
アデラーンとセリーヌは互いに顔を見合わせ、小さく頷く。
十五年前の真実が、もうすぐ明らかになろうとしていた。




