第52話 寿命
魔物討伐の依頼を終えた帰り道。
夕焼けに染まる街道を、アデラーンとセリーヌは並んで歩いていた。
先ほどの戦いを思い返す。
先生の太刀筋は、今日も見惚れるほど美しかった。
暗黒剣。
暗黒魔剣。
そのどれもが鋭く、無駄がない。
しかし。
(……何だろう)
戦いの最中から、ずっと胸に引っ掛かっていた。
言葉では上手く説明できない。
先生が暗黒剣を放つたび、剣の中で魔力がわずかに滞っているような違和感。
本来ならもっと滑らかに流れるはずの魔力が、どこか引っ掛かっているような感覚だった。
戦闘中は気のせいだと思っていた。
だが、その違和感が頭から離れない。
「先生」
「ああ」
「その剣、少し見せていただけますか」
アデラーンは何も言わず、腰の黒曜鉄の剣を手渡した。
セリーヌは静かに刀身を抜く。
黒曜石のような漆黒の刃。
十五年前。
師ロランから受け継いだ一振りだった。
魔王討伐の旅を駆け抜け。
平和となった世界でも、幾度となく命を救ってくれた。
アデラーンにとって、その剣はただの武器ではない。
師との思い出が詰まった、かけがえのない相棒だった。
しかし、その刀身には無数の細かな傷が刻まれている。
さらに魔力を流してみる。
「……」
やはり違う。
以前のような滑らかな魔力の流れではない。
明らかに鈍くなっていた。
セリーヌは静かに顔を上げる。
「先生」
「その剣……もう寿命です」
アデラーンは少し驚いたように目を細めた。
「……よく分かったな」
「最近、暗黒剣を使うたびに魔力の流れが鈍くなってきていた」
「俺も薄々気付いてはいた」
それでも、アデラーンは静かに首を横へ振る。
「能書、筆を選ばず」
師ロランが幼い頃から何度も口にしていた教え。
剣に頼るな。
己を磨け。
その言葉と共に受け継いだ、この黒曜鉄の剣。
師の形見でもある相棒を替えるつもりはなかった。
しかし、セリーヌは真っ直ぐアデラーンを見つめる。
「先生」
「その筆が折れたらどうするんですか」
「先生がどれだけ強くても、剣が壊れてしまえば戦えません」
「私は……先生を失いたくありません」
その真っ直ぐな言葉に、アデラーンは静かに黒曜鉄の剣へ視線を落とした。
長年苦楽を共にしてきた相棒。
師ロランとの思い出が詰まった、唯一無二の形見。
しばらくの沈黙が流れる。
やがてアデラーンは小さく息を吐いた。
「……分かった」
「お前がそこまで言うのなら」
その言葉に、セリーヌはほっと胸を撫で下ろし、柔らかく微笑んだ。
こうして二人は、長年苦楽を共にした黒曜鉄の剣に代わる、新たな相棒を探すことを決めるのだった。




