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第51話 剣が恋人

 一方その頃。


 セリーヌは、王国騎士団長アーサーから剣の指導を受けていた。


 鋭い剣戟が訓練場へ響き渡る。


 カンッ!


 カンッ!


 互いに剣を交えながら、アーサーは静かにセリーヌの動きを見極めていた。


 しかし。


 カンッ!


 剣を合わせるたびに、セリーヌの視線は自然と離れた場所へ向いてしまう。


 その先には――。


 騎士たちへ厳しい稽古をつけるアデラーンの姿。


(先生……)


(かっこいい……)


 思わず見惚れてしまう。


 再び剣を交える。


 しかし、また視線が逸れる。


 三度目。


 またアデラーンを見てしまった。


 普通なら立ち合い中によそ見など失礼に値する。


 アーサーは静かに剣を下ろした。


「そこまで」


「え?」


 セリーヌは慌てて姿勢を正す。


「す、すみません!」


「集中できてませんでした……」


 アーサーは苦笑した。


「いや」


「理由は分かってる」


 そう言ってアデラーンへ視線を向ける。


「ねえ」


「君はアデラーンのことをどう思ってる?」


「えっ!?」


 突然の質問に、セリーヌの肩が大きく跳ねた。


「い、いや、その……」


「好きです!」


 言った瞬間、自分で固まる。


「ち、違います!」


「好きっていうのは、その……」


「父としてと言いますか!」


「師匠としてと言いますか!」


 顔も耳も真っ赤だった。


 アーサーは思わず吹き出した。


「やれやれ」


「やっぱりか」


「まさか、血はつながっていないとはいえ」


「自分の娘同然に育った子の心まで奪ってしまうとは」


「あいつは、本当に罪な男だな」


「えぇぇぇっ!?」


 セリーヌは耳まで真っ赤になる。


「そ、そんなに分かりやすかったですか!?」


「ああ」


「君のアデラーンを見る目が気になってね」


「そこまで露骨でしたかぁ……」


 セリーヌは両手で顔を覆った。


 恥ずかしくて消えてしまいたい。


 アーサーは苦笑しながら続ける。


「それより不思議なのは、あいつだ」


「ここまで分かりやすいのに、まったく気付かない」


 セリーヌは勢いよく頷いた。


「そうなんですよ!」


「この前なんて先生と甘味処へ行ったんです!」


「カップル割引のお店だったんですけど……」


「先生、こんなこと言うんですよ」


「『セリーヌ』」


「『お前も、そろそろいい人を見つけて結婚しろ』」


「『俺は、お前には幸せになってほしい』」


「『もし、お前に子供ができたら』」


「『抱いてみたいな』」


 アーサーは額へ手を当てた。


「……それは酷いな」


 セリーヌは涙目で何度も頷く。


「そうなんです!」


「いい人なら目の前にいるのに……」


「結婚するなら先生しか考えられないのに……」


 アーサーは肩をすくめた。


「昔からそうだった」


 セリーヌは勢いよく身を乗り出す。


「ひょっとして……」


「女ですか!?」


「魔王討伐の時に女絡みで何かあったんですか!?」


「恋人ですか!?」


「実は恋人がいたんですか!?」


「知ってるんですか!?」


「教えてください!!」


 矢継ぎ早に質問しながら、ぐいっと身を乗り出す。


 アーサーは思わず一歩後ずさる。


「く、食い付きがすごいね……」


(本当に分かりやすい子だな)


 苦笑しながら話を続けた。


「安心しな」


「恋人はいなかった」


 その一言を聞いた瞬間、セリーヌは胸をなで下ろした。


「よ、よかったぁ……」


 思わず本音が漏れる。


 アーサーは思わず吹き出した。


「でも、モテたのは事実だ」


「魔王討伐の旅でも」


「復興支援で各地を回った時も」


「行く先々の村や町で」


「食事に誘われ」


「贈り物を渡され」


「告白されたことも一度や二度じゃない」


 セリーヌは目を丸くする。


「でも先生……」


「いつも漆黒の甲冑を身につけていたのですよね?」


「素顔なんて誰も知らなかったはずじゃ……」


 アーサーは苦笑した。


「ああ」


「それでもモテた」


「誰よりも強く」


「誰よりも優しく」


「誰よりも誠実だったからな」


「姿ではなく、生き様に惹かれた人が多かったんだ」


「本人だけが、全部『町の人が親切にしてくれているだけ』と思っていた」


 セリーヌは呆然と立ち尽くす。


「そ、そんなことあります……?」


 アーサーは懐かしそうに笑った。


「だから魔王討伐隊のみんなで、よく言ってたよ」


「大聖女ミュゲも」


「エルフの大魔術師サンセリテも」


「学者クロエも」


「そして俺も」


 四人は顔を見合わせ、口を揃えた。


「お前は剣が恋人か!」


 セリーヌは思わず吹き出す。


「……本当ですね」


 その視線の先では、何も知らないアデラーンが今日も真剣に騎士たちへ剣を教えていた。


 本当に。


 剣は超一流。


 恋愛だけは、無級だった。

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