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第49話 共同作業

 ある日の午後。


 アデラーンが買い出しへ出掛けた時だった。


 道場では、セリーヌが一人で掃除をしている。


 そこへリュカとリリアが近付いてきた。


「セリーヌさん」


 リュカがにやりと笑う。


「一つ聞いてもいいですか?」


「はい?」


 リリアもいたずらっぽく微笑む。


「ひょっとして……」


「ひょっとしなくても、今でも先生のこと好きですよね?」


「えっ!?」


 セリーヌの肩がびくっと跳ねた。


「だって」


「好きじゃなかったら、ここまでしませんよ」


「先生と一緒に冒険者をして」


「毎日ご飯を作って」


「洗濯もして」


「道場のお世話までして」


「もう奥さんみたいですもん」


「ち、違っ……!」


 真っ赤になって慌てるセリーヌ。


 しかし二人は止まらない。


「というか」


「ここ数日、先生を見る目が露骨すぎます」


「好きって顔に書いてありますよ」


「恥ずかしいぃぃぃ!!」


 セリーヌは顔を真っ赤にして、その場にしゃがみ込んでしまった。


 リリアは苦笑する。


「それより不思議なのは先生ですよね」


「ここまで分かりやすいのに」


「なんで気付かないんだろう……」


 リュカは肩をすくめる。


「先生ですから」


「恋愛だけは昔から無級です」


 三人は思わず笑ってしまう。


 その時だった。


「戻った」


 アデラーンが買い物袋を抱えて戻ってくる。


 リリアはぱっと笑顔になった。


「先生!」


「今日は私たち二人で道場を見ています」


「たまにはセリーヌさんと出掛けてきてください」


 リュカも続ける。


「先生、昔から甘いものがお好きでしたよね」


「大通りの甘味処が評判なんです」


「今日はカップル割引もやっているそうですよ」


「甘味か」


 アデラーンは少し考えたあと、静かに頷く。


「久しぶりに行くか」


 セリーヌは耳まで真っ赤になる。


「カ、カップルって……」


 二人に背中を押されるようにして、師弟は大通りの甘味処へ向かった。


 店内は多くの客で賑わっている。


「いらっしゃいませ!」


「本日はカップル割引を実施しております!」


 店員が笑顔で迎えた。


 セリーヌは俯いたまま動けない。


(カップル……)


(私たちが……)


 一方、アデラーンは店内を見回した。


「しかし」


「カップルが多いな」


 セリーヌの胸が高鳴る。


(やっと少しは意識してくれた!?)


 期待に胸を膨らませる。


 しかし。


「セリーヌ」


「共同作業だな」


「……え?」


「二人で注文した方が早い」


 そして、ごく自然な口調で続けた。


「俺たちは親子のようなものだ」


「それで安くなるなら、お得だな」


 セリーヌの思考が止まる。


「お、お、お、お、おやこぉぉぉ!?」


 心の中で絶叫した。


(違います!)


(親子じゃありません!)


(私は先生のお嫁さんになりたいんですぅぅぅ!!)


 もちろん、声には出せない。


 店員は思わず吹き出し、周囲の客もくすくすと笑う。


「あの二人、お似合いね」


「仲のいい恋人さんだ」


 そんな囁きが聞こえる中、アデラーンは穏やかに微笑んだ。


「セリーヌ」


「お前も、そろそろいい人を見つけて結婚しろ」


「俺は、お前には幸せになってほしい」


 セリーヌは涙目になる。


(そんなこと言わないでぇぇぇ!!)


(いい人なら目の前にいるじゃないですか!!)


(結婚するなら先生しか考えられません!!)


 アデラーンは続けた。


「もし、お前に子供ができたら」


「抱いてみたいな」


 セリーヌの涙目はさらに潤んだ。


(先生ぇぇぇ……)


(その子は先生との子じゃなきゃ嫌なんですぅぅぅ!!)


 そして、妄想が始まる。


(先生との間に生まれた子……)


(女の子だったら先生似で、優しくて凛々しい子になるんだろうな……)


(男の子だったら私に似て、お父さん!って先生の後ろをついて歩くのかな……)


(先生、嬉しそうに剣を教えるんだろうな……)


(休日は家族三人でお出掛けして……)


(えへへ……)


(幸せそう……)


「セリーヌ?」


「どうした?」


「はっ!」


 気付けば、にやけたまま固まっていた。


「な、何でもありません!!」


 一方のアデラーンだけは、不思議そうに首を傾げる。


「何がおかしいんだ?」


 本気で分かっていなかった。


 今日もまた。


 セリーヌの妄想だけが、どこまでも暴走していくのだった。

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