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第48話 広まらない剣

 リュカとリリアが魔剣流道場へ戻ってから数日。


 二人は士官学校時代の実績を買われ、王都の貴族子弟へ剣術を教えていた。


 士官学校首席級卒業。


 王国剣術大会男女優勝。


 若くして名を馳せた二人には、剣術指南の依頼が次々と舞い込んでいた。


 ある日の夕方。


 稽古を終えたアデラーンは、縁側へ腰を下ろした双子へ静かに声を掛ける。


「どうだ」


「剣術指南は」


 そして、ほんの少しだけ目を細めた。


「……魔剣流は教えているのか」


 その声には、僅かな期待が滲んでいた。


 自分では気付いていない。


 しかし、長年師を見てきたセリーヌには分かった。


(先生……。)


(少し期待してる。)


(魔剣流を教えているって聞けるのを、楽しみにしてるんですね……。)


 リュカとリリアは顔を見合わせる。


 やがてリュカが静かに口を開く。


「……いいえ」


「私たちが教えているのは、グランツ流です」


 静かな沈黙が流れる。


 アデラーンの表情は変わらない。


 それでもセリーヌには分かった。


 先生の小さな期待が、静かに胸の奥へしまわれたことを。


 リリアが申し訳なさそうに続ける。


「士官学校では、グランツ流が正式な教習流派として採用されています」


「教官の先生方も皆、グランツ流の剣士でした」


「王国剣術大会も、試合の部も套路演武の部も、すべてグランツ流で出場しています」


 リュカも頷く。


「卒業後の剣術指南も、その流れでグランツ流を教えてほしいという依頼ばかりでした」


 そして静かに続ける。


「理由は明白でした」


『グランツ流は王国でも広く知られた伝統ある流派だから安心だ』


『聞いたことのない流派では少し不安だ』


『まずは名の知れた流派を学ばせたい』


『格式ある家には、それに相応しい流派がある』


『魔剣流……名前を聞いたことがないな』


「そんな声がほとんどでした」


 リリアも悔しそうに俯く。


「魔剣流も伝統ある流派です」


「でも、あまりにも知名度がありません」


「王都では、その存在すら知らない方がほとんどでした」


「だから私たちも、魔剣流を教えることはできませんでした」


 二人は深く頭を下げる。


「先生……」


「申し訳ありません」


 セリーヌも胸が締め付けられた。


 ようやく魔剣流の名が少しずつ広まり始めた。


 しかし、王都ではまだ無名に等しい。


 それでも。


 アデラーンは穏やかに微笑む。


「謝ることではない」


 三人は顔を上げた。


「伝統があっても」


「知られなければ、存在しないのと同じだ」


「だからこそ、俺たちが広める」


「積み重ねは裏切らん」


 夕焼けに染まる道場を見つめながら、静かに続ける。


「いつか」


「誰もが魔剣流の名を知り」


「胸を張って魔剣流を教えられる時代を作ろう」


 三人は力強く頷く。


「はい!」


 長い歴史を持ちながらも、王都では埋もれてしまっていた魔剣流。


 しかし、その剣は決して途絶えることはない。


 ロランからアデラーンへ。


 アデラーンからリュカ、リリア、セリーヌへ。


 受け継がれた志は、一歩ずつ、確かに未来への道を切り拓いていくのだった。

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