第2話 救われた命
村を襲った魔物は、すべて討ち倒された。
しかし、失われた命は戻らない。
村人たちは倒れた家族を抱き寄せ、あちこちで泣き崩れていた。
その光景を、アデラーンは静かに見つめる。
ふと視線を向けると、小さな少女が両親の亡骸へしがみついていた。
「お父さん……」
「お母さん……」
何度呼び掛けても返事はない。
幼いセリーヌは涙を流し続ける。
アデラーンはゆっくりと歩み寄った。
少女の前へ膝をつく。
「……立てるか」
セリーヌは首を横へ振る。
「お父さんと、お母さんが……」
それ以上、言葉にならなかった。
アデラーンは静かに目を閉じる。
幼い頃の記憶が脳裏によみがえる。
魔物に襲われた故郷。
目の前で命を落とした父と母。
行き場を失い、一人取り残された幼い自分。
あの日。
一人の男が手を差し伸べてくれた。
先代宗家――ロラン。
あの大きな手。
厳しくも温かかった眼差し。
あの日がなければ、今の自分はいない。
アデラーンは小さく息を吐く。
「……そうか」
目の前にいる少女も、あの日の自分と同じなのだ。
静かに右手を差し出す。
「あの日、師匠が俺を救ってくれたように」
「今度は俺が、この子を救う番だ」
セリーヌは涙で濡れた瞳をゆっくりと上げる。
差し出された大きな手。
少し震えながら、その手を握った。
温かかった。
大きくて、力強かった。
その手を握った瞬間、不思議と恐怖が少しだけ消えた。
アデラーンはそっとセリーヌを抱き上げる。
「帰ろう」
短い一言だった。
セリーヌは小さく頷く。
泣き疲れた身体を預けると、いつしか瞼が重くなっていった。
帰り道。
夕焼けに染まる山道を、アデラーンは静かに歩く。
腕の中では、小さな寝息が聞こえていた。
その寝顔を見つめながら、アデラーンは心の中で固く誓う。
この子は、俺が守る。
もう二度と、大切なものを失わせはしない。
その日から。
アデラーンとセリーヌの、親子であり、師弟でもある不思議な日々が始まったのであった。




