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第1話 魔物の襲撃

 ――今から数十年前。


 まだ魔王が世界へ君臨し、人々が戦乱の日々を送っていた頃のことである。


 魔物による村の襲撃は決して珍しい出来事ではなかった。


 王国各地では毎日のように村や町が襲われ、多くの人々が故郷や家族を失っていた。


 そして、その悲劇は小さな村にも容赦なく訪れる。


「魔物だ!」


「逃げろ!」


「子どもたちを連れて行け!」


 穏やかだった村は、一瞬にして地獄へ変わった。


 燃え盛る家々。


 立ち上る黒煙。


 響き渡る悲鳴。


 巨大な魔物たちは咆哮を上げながら家々を踏み潰し、人々へ襲いかかっていた。


「セリーヌ!」


 幼い少女セリーヌは、父と母に守られながら必死に逃げていた。


 父は剣を構え、母は娘を強く抱きしめる。


「お父さんが時間を稼ぐ!」


「あなた!」


「セリーヌを頼む!」


 父は恐怖を押し殺しながら魔物へ立ち向かう。


 しかし、村人の剣では魔物に敵わない。


「うおおおおっ!」


 渾身の一撃。


 だが、その剣は魔物の硬い皮膚を浅く傷つけるだけだった。


 魔物は鬱陶しそうに腕を振るう。


 鈍い衝撃音。


 父の身体は宙を舞い、地面へ叩きつけられる。


「あなたっ!」


 母の悲痛な叫びが響く。


 父は動かなかった。


「いや……」


 セリーヌの瞳から涙が溢れる。


 魔物はゆっくりと近付いてくる。


 母はセリーヌを抱き締め、小さく微笑んだ。


「セリーヌ」


「何があっても、生きるのよ」


「お母さん……?」


 その瞬間。


 魔物の巨大な爪が振り下ろされた。


 母は咄嗟にセリーヌを突き飛ばす。


 鮮血が宙を舞った。


「お母さん!!」


 母は最後まで娘を見つめ、静かに微笑む。


「生き……て……」


 その言葉を最後に、動かなくなった。


 父も。


 母も。


 もう動かない。


 魔物は最後の獲物を見つめるように、幼いセリーヌへ歩み寄る。


「いや……」


「いやぁ……」


 逃げたい。


 でも足が動かない。


 恐怖で身体は震え、涙が止まらない。


 魔物は大きく腕を振り上げた。


 その時だった。


 ズシン――。


 大地を揺らす重い足音が響く。


 黒煙の向こうから、一人の剣士がゆっくりと姿を現した。


 全身を覆う漆黒の甲冑。


 腰には一振りの剣。


 その姿は闇そのもの。


 しかし、不思議と恐ろしくはなかった。


 絶望しかなかった世界へ差し込んだ、一筋の光のように見えた。


 男は静かに剣を抜く。


「……遅くなった」


 短く呟き、一歩踏み込む。


「魔剣流――」


 腰を落とし、全身を一つにまとめる。


「一の剣」


 大地を力強く踏み締める。


「――崩剣ほうけん


 次の瞬間。


 剣閃が走る。


 一太刀。


 ただ、それだけだった。


 魔物の巨体は斜めにずれ、轟音とともに崩れ落ちる。


 辺りは静まり返った。


 男は何事もなかったかのように剣を鞘へ納める。


 そして、セリーヌの前へ膝をついた。


「怪我はないか」


 低く穏やかな声だった。


 セリーヌは涙で滲む瞳のまま、その男を見上げる。


 夕日に照らされた漆黒の甲冑。


 力強く、それでいて優しい眼差し。


 まるで物語の英雄が、本当に目の前へ現れたようだった。


 幼いセリーヌは、ただその背中に見入ることしかできなかった。


 その日。


 セリーヌは命を救われた。


 そして胸へ刻まれた憧れは、これから共に歩む十年の歳月の中で、誰にも消すことのできない恋へと変わっていくのであった。

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