第46話 名声
アデラーンとセリーヌが冒険者として活動を始めてから、一か月ほどが過ぎていた。
採集。
討伐。
護衛。
運搬。
二人は様々な依頼を着実にこなし、その名は少しずつ王都の冒険者たちの間で知られるようになっていく。
「あの黒衣の剣士だ」
「また一瞬で討伐を終わらせたらしいぞ」
「隣にいるのは、現役の金ランク冒険者セリーヌ・ブランシュだろ?」
「ああ」
「どっちもとんでもない実力者らしい」
そんな噂は、やがてギルドの外へも広がり始めていた。
ある日のこと。
依頼を終えた二人が道場へ戻ると、一人の青年が門の前で待っていた。
「あ、あの!」
「黒衣の剣士さんですよね!」
青年は緊張した面持ちで深々と頭を下げる。
「お願いがあります!」
「魔剣流を教えてください!」
その言葉を聞いたセリーヌの表情がぱっと明るくなる。
(ついに……!)
(先生の剣を学びたい方が……!)
しかし。
アデラーンはいつも通り、静かに説明を始めた。
「魔剣流は基本を何より重んじる」
「毎朝、素振り一万本」
「走り込み」
「基本五型の反復」
「型が崩れれば最初からやり直しだ」
青年は笑顔のまま固まった。
「い……一万本?」
「毎日ですか?」
「ああ」
アデラーンは迷いなく頷く。
「基本を積み重ねた者だけが、型を崩すことを許される」
「それが魔剣流だ」
青年は顔を引きつらせた。
「す、すみません!」
「もう少し覚悟を決めてから出直します!」
勢いよく頭を下げ、そのまま走り去っていく。
静まり返る道場。
セリーヌは苦笑した。
「惜しかったですね」
「ああ」
アデラーンは穏やかに頷く。
「無理に学ばせるものではない」
「自ら学びたいと願う者へ伝える」
「それでいい」
そして静かに道場の庭へ目を向け、小さく微笑んだ。
「積み重ねは裏切らん」
その一言には、長い歳月を積み重ねてきた者だけが持つ重みがあった。
セリーヌも優しく微笑む。
「はい」
「いつかきっと、先生の想いを受け継ぐ方が現れます」
門下生は、まだ一人もいない。
それでも。
王都では確かに、「魔剣流」という名が語られ始めていた。
それは未来へ続く、小さな一歩。
ロランからアデラーンへ。
そして、アデラーンから次の世代へ。
魔剣流はゆっくりと、しかし確実に未来へ受け継がれようとしていた。




