第45話 魔物討伐
アデラーンとセリーヌが冒険者となってから数日。
二人は王都近郊の森へ討伐依頼を受けていた。
討伐対象はゴブリン数体。
青銅ランク向けの、ごく一般的な依頼である。
二人は森の中を歩きながら周囲を警戒していた。
「先生」
「魔王は三年前に討伐されました」
「それなのに、どうして今でも魔物は現れるのでしょうか」
アデラーンは静かに歩みを進めながら答える。
「魔物とは、生まれながらの存在ではない」
「既存の生物が、高濃度の魔素を長期間浴び続けることで変異した姿だ」
セリーヌは真剣な表情で耳を傾ける。
「霊長類ならゴブリンやオーガなどの人型魔物」
「猪ならワイルドボアやオーク」
「狼ならガルム」
「水中の微生物ならスライム」
「他の生物も、それぞれ魔物へ変異する」
「魔王ニコラスは討たれた」
「だが、魔王因子によって千年もの間、世界へ放出され続けた魔素が消えたわけではない」
「以前より魔物は大きく減った」
「それでも今なお、魔素の濃い土地では新たな魔物が生まれ続けている」
「だから今も冒険者が必要なんですね」
「ああ」
その時だった。
ガサッ――。
茂みから三体のゴブリンが飛び出した。
「ギギャアッ!」
棍棒を振り上げ、一斉に襲い掛かる。
「先生!」
「ああ」
アデラーンは静かに前へ出る。
「暗黒」
黒い魔力が身体を包み込む。
身体能力が飛躍的に高まり、景色がゆっくりと流れ始めた。
一歩。
それだけでゴブリンとの間合いを詰める。
続けて黒曜鉄の剣を抜いた。
「暗黒剣」
漆黒の魔力が刀身を覆う。
一閃。
二閃。
三閃。
三体のゴブリンは断末魔を上げる暇もなく倒れ伏した。
静かに剣を納める。
「終わった」
しかし、その直後。
森の奥から重い地響きが響く。
ズシン……
ズシン……
現れたのは巨大なワイルドボアだった。
通常なら鉄ランク以上が討伐する魔物である。
「先生!」
「依頼書にはありません!」
「問題ない」
ワイルドボアは大地を揺らしながら突進する。
アデラーンは半歩だけ踏み込んだ。
一閃。
黒曜鉄の剣が一筋の黒い軌跡を描く。
巨大な身体は、そのまま数歩進み、静かに崩れ落ちた。
その時だった。
ガルルルルッ!!
アデラーンの背後。
茂みから一頭のガルムが飛び出した。
死角からの奇襲。
「先生!!」
セリーヌが地を蹴る。
「暗黒!」
身体能力が一気に高まる。
続けて剣へ黒い魔力を纏わせる。
「暗黒剣!」
一閃。
ガルムは空中で真っ二つとなり、そのまま地面へ崩れ落ちた。
静寂。
アデラーンは振り返り、小さく頷く。
「助かった」
「ありがとう」
その一言だけだった。
しかし、セリーヌには十分だった。
(先生に……)
(ありがとうって言ってもらえました……)
(先生の背中を守れました……)
(私……)
(先生のお役に立てたんですね……)
胸が熱くなる。
アデラーンは黒曜鉄の剣を鞘へ納める。
「以前なら一人で戦っていた」
「だが今は違う」
「背中を任せられる弟子がいる」
セリーヌは目を丸くした。
次の瞬間、満面の笑みを浮かべる。
「はい!」
その返事は、どんな討伐成功よりも嬉しそうだった。
こうして二人は依頼を終え、王都へ戻る。
やがて冒険者たちの間で、一つの噂が広まり始める。
「あの黒衣の剣士だ」
「金ランクの美人剣士と組んでいる師弟だろ?」
「また依頼を一瞬で終わらせたらしい」
「何者なんだ、あの二人は……」
まだ、その正体を知る者はいない。
それでも、黒衣の剣士と美しき女剣士の名は、少しずつ王都中へ広まり始めていた。




