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第43話 そんなおっさんより

 初めての依頼を終えたアデラーンとセリーヌは、冒険者ギルド酒場で昼食を取っていた。


 依頼帰りの冒険者たちで賑わう店内。


 酒を酌み交わす者。


 戦果を語り合う者。


 豪快な笑い声があちこちから響いてくる。


「先生、お疲れ様でした」


「ああ」


「薬草採集も勉強になった」


 アデラーンは紅茶を一口飲み、穏やかに微笑んだ。


 向かいに座るセリーヌは、その横顔を見つめながら頬を緩める。


(先生と二人で依頼を受けて……)


(一緒にご飯を食べて……)


(幸せです……)


(今日の先生、かわいかったなぁ……)


(雑草を薬草だと思って……)


(毒キノコまで採ってきちゃって……)


(私が教えてあげないと何もできない先生……)


(放っておけません……)


(毎日お世話してあげたいです……)


(えへへ……)


 幸せな妄想に浸り、思わず頬が緩み切ってしまう。


 その時だった。


「おっ」


「すげぇ美人じゃねぇか」


 数人の若い冒険者が近付いてきた。


 先頭の男は軽薄そうな笑みを浮かべている。


「お嬢さん」


「さっき見てたぜ」


「金ランク冒険者なんだろ?」


「いやぁ、驚いたよ」


 セリーヌは軽く会釈した。


「ありがとうございます」


 男は椅子へ手を掛け、馴れ馴れしく笑う。


「だったらさ」


「そんなおっさんと組んでないで、俺たちと組まないか?」


「俺たちも銀ランクだ」


「依頼もいっぱい受けられるし、稼ぎも悪くないぜ」


 そしてアデラーンを一瞥すると、鼻で笑った。


「それに、そのおっさん」


「どう見ても弱そうじゃねぇか」


「青銅ランクだろ?」


「そんなおっさんと組んでても、全然稼げそうにねぇぞ」


 仲間たちも吹き出した。


「違いねぇ!」


「新人のおっさんのお守りなんて大変だな!」


「荷物持ちにもならなそうだ!」


「がはははは!」


 酒場中に下品な笑い声が響く。


 一方、アデラーンは紅茶を飲みながら首を傾げていた。


(そう見えるものなのか……)


 本人はまったく気にしていない。


 しかし男はさらに口元を歪める。


「俺たちの方が、そんなおっさんより夜も楽しませてやれるぜ」


「がはははは!」


 その瞬間。


 セリーヌの笑顔が消えた。


 ぴくり、と眉が動く。


 先生を笑い者にした。


 先生を侮辱した。


 しかも、こんな下品な言葉で。


 胸の奥から、静かな怒りが込み上げる。


 セリーヌは男を真っ直ぐ見据えた。


「……お断りします」


「私は先生の弟子です」


「先生以外の方と組むつもりはありません」


 そして、冷たく言い放つ。


「先生を侮辱する方とは、お話しすることもありません」


 男の表情が険しくなる。


「……いい気になるなよ」


 そう言って、一歩、また一歩とセリーヌへ近付いていく。


 酒場の空気が張り詰めた。


 次の瞬間。


 男の手が、セリーヌへ向かって伸びた。

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