第39話 冒険者登録
王都ローズガーデン。
魔剣流道場。
王都へ移ってから、しばらくの月日が流れていた。
王国騎士団剣術指南役。
英雄アーサーとも互角に渡り合う剣士。
それでも魔剣流の知名度は高くなかった。
道場破りは毎日のように訪れる。
入門を希望する者も、時折現れる。
しかし――。
「先生!」
「も、もう無理です!」
「こんな稽古、続けられません!」
入門者は決まって一日も経たないうちに音を上げ、道場を去っていく。
毎朝の素振り一万本。
走り込み。
基本五型の反復。
型が崩れれば最初からやり直し。
魔剣流の修行は、あまりにも厳しかった。
静まり返った道場を見渡し、アデラーンは小さく息を吐く。
「……やはり難しいな」
その様子を見ていたセリーヌが、静かに口を開く。
「先生」
「一つ、ご提案があります」
「なんだ」
「魔剣流を未来へ残すには、まず先生のお名前を多くの方へ知っていただく必要があります」
アデラーンは静かに頷いた。
「続けてくれ」
「冒険者になりましょう」
その一言に、アデラーンは少しだけ目を丸くする。
「冒険者か」
「はい」
「冒険者ギルドには、この国中から様々な方が集まります」
「名声を求める人」
「富を求める人」
「名誉を求める人」
「権力を求める人」
「そして異性との出会いを求める人まで、本当に様々です」
「依頼をこなし、先生のお名前が広まれば、魔剣流にも興味を持ってくださる方がきっと現れます」
「今は先生の強さを知る方が少なすぎるんです」
アデラーンは腕を組み、しばらく考え込む。
やがて静かに頷いた。
「なるほど」
「名を売るため、か」
「はい!」
「魔剣流を未来へ残すためです!」
真っ直ぐな瞳。
弟子の熱意が伝わってくる。
アデラーンは穏やかに微笑んだ。
「ああ」
「それは良い考えだ」
「行こう」
「はい!」
二人は王都の大通りを歩き始めた。
向かう先は、大陸冒険者協会ローズガーデン支部。
王都でも屈指の賑わいを見せる場所である。
「先生、見えてきました!」
セリーヌが嬉しそうに指差す。
大きな木造建築。
入口には剣と盾を模した看板が掲げられ、多くの冒険者たちが出入りしていた。
アデラーンは建物を見上げ、小さく頷く。
「ここが冒険者ギルドか」
「はい!」
しかし、その表情はどこか困ったようでもあった。
「……正直に言う」
「何一つ分からん」
セリーヌは思わず吹き出した。
「先生にも分からないことがあるんですね」
「魔王討伐の時は、王国騎士団から直接依頼を受けていた」
「だから冒険者制度とは無縁だった」
「なるほど」
セリーヌは笑顔で胸を張る。
「先生」
「今日は私が先生です!」
アデラーンは少し目を丸くしたあと、穏やかに笑う。
「ああ」
「今日は頼りにしている」
「全部お任せください!」
剣では師と弟子。
冒険者では弟子と師。
こうして二人は、新たな世界へ足を踏み入れる。
魔剣流を未来へ残すための、新たな挑戦が始まるのだった。




