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第35話 光と闇

 王国騎士団修練場。


 修練場を包む空気は、これまで以上に張り詰めていた。


 アーサーは武器棚から一本の木剣を手に取る。


「最後は私が相手を務めよう」


 その一言に、修練場がざわめく。


「団長自ら……!」


「模範試合だ!」


 アデラーンも静かに木剣を構えた。


「よろしく頼む」


「こちらこそ」


 二人は向かい合う。


 魔王討伐の旅を共に戦い抜いた戦友。


 互いの剣を誰よりも知り尽くした者同士だった。


 静かに礼を交わす。


「始め!」


 ダンッ!!


 二人は同時に地を蹴った。


 ガァンッ!!


 開始と同時に木剣が激突する。


 重い衝撃音が修練場へ響き渡った。


 ガンッ!


 ガガンッ!


 ガンッ!


 一瞬で十数合。


 騎士たちの目には、木剣の軌跡すら映らない。


「速い……!」


「見えない!」


 アーサーが鋭く踏み込む。


 アデラーンは紙一重で身体を開き、剣を滑らせるように受け流した。


 返す刃。


 アーサーは半歩だけ退き、その一撃をかわす。


 次の瞬間には再び間合いへ飛び込み、連撃を繰り出す。


 攻める。


 受ける。


 崩す。


 返す。


 一太刀ごとに主導権が入れ替わる。


 互いに一歩も譲らない。


 副団長ヴィクトルが息を呑んだ。


「違う……」


「あの二人は剣で戦っているんじゃない」


「呼吸を読み」


「重心を読み」


「相手の次の一手まで読んでいる……!」


 その瞬間。


 アーサーが左手を木剣へ添えた。


 黄金色の光が刀身を包み込む。


 眩い光が修練場を照らした。


「光の魔法剣!」


 騎士たちがどよめく。


 対するアデラーンも静かに息を整える。


 漆黒の魔力が木剣を包み込んだ。


「暗黒剣!」


 黄金と漆黒。


 光と闇。


 二つの力が真正面から激突する。


 ドォォォォンッ!!


 衝撃波が修練場を吹き抜けた。


 アーサーは一歩踏み込み、木剣を横薙ぎに振るう。


「光刃」


 黄金の斬撃が一直線に放たれる。


 アデラーンは暗黒剣を纏った木剣で迎え撃つ。


 ガァンッ!!


 黄金の刃は漆黒に砕かれ、無数の光となって宙へ散った。


 間髪入れずアーサーが突きを放つ。


 アデラーンは身体を半歩ずらし、木剣を絡めるように受け流す。


 そのまま崩しへ移る。


 しかしアーサーも即座に重心を切り替え、逆に体勢を立て直した。


 三十合。


 四十合。


 五十合。


 なおも勝負は決しない。


 そして。


 二人は同時に踏み込んだ。


 ガァァァァァンッ!!


 この日最大の衝撃が修練場を震わせる。


 互いの木剣は鍔元で止まり、そのまま静かに離れた。


 アーサーは木剣を下ろした。


「そこまで」


 アデラーンも静かに木剣を納める。


 二人は自然と笑みを浮かべ、一礼を交わした。


 修練場は水を打ったような静寂に包まれる。


 誰一人として声を発することができなかった。


 今、自分たちは王国最高峰の戦いを目撃したのである。


 やがて一人の騎士が、おそるおそる口を開いた。


「団長……」


「先ほどの光の魔法剣とは、一体どのような魔法なのですか」


 アーサーは静かに頷く。


「光魔法とは」


「魔素を分解した際に生じる莫大なエネルギーを利用する魔法だ」


「火、水、風、土の四属性魔法とは根本原理そのものが異なる」


「四属性魔法が魔素を属性魔力へ変換して扱う魔法なら」


「光魔法は、魔素そのものを分解し、その際に生じる膨大なエネルギーを直接制御する魔法だ」


「だからこそ」


「超身体強化」


「光治癒」


「浄化」


「そして光の魔力そのものを刃として放つ光刃など」


「四属性魔法とは比較にならない応用が可能となる」


 騎士たちは固唾を呑む。


 アーサーは静かに続けた。


「この力を自在に扱えた英雄がいる」


「千年に及ぶ魔王時代」


「魔物に怯える時代へ終止符を打った大聖女」


「ミュゲ・ジプソフィル様だ」


「あの方がいなければ、魔王討伐は決して成し遂げられなかった」


 修練場は静まり返る。


 一人の騎士が感嘆の声を漏らした。


「では団長は……」


「大聖女様と同じ力を……」


 アーサーは静かに首を横へ振る。


「違う」


「私は光魔法を剣技へ応用しているに過ぎない」


「ミュゲ様の前では」


「私が千人いても遠く及ばない」


「私たちは皆」


「あの方に生かされた一人なんだ」


 誰も言葉を返せなかった。


 その場にいた全員が、大聖女という存在の偉大さを改めて知った。


 その時だった。


 アデラーンは何事もなかったかのように木剣を構え直す。


「昔話は終わりか」


「なら、続きをやるぞ」


 一瞬の静寂。


 そして。


「はいっ!!」


 二十七名の騎士たちの返事が、修練場いっぱいに響き渡る。


 その日、王国騎士団が学んだのは剣技だけではなかった。


 本物の英雄とは何か。


 本物の武人とは何か。


 その答えは、光と闇をまとい、誰よりも静かに剣を振るう二人の背中が、何より雄弁に語っていたのであった。

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