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第34話 宗家公認

 王国騎士団修練場。


 修練場には、なお騒めきが広がっていた。


「なぜ魔剣流宗家がアルベール流を……!」


「しかも我々より遥かに洗練されている!」


「何者なんだ、この人は……!」


 騎士たちの疑問に答えるように、アーサーが静かに一歩前へ歩み出た。


「紹介が遅れたな」


 修練場が静まり返る。


 アーサーは旧友を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「彼は――」


「魔王討伐の英雄の一人」


「アデラーン・グランディスだ」


 一瞬。


 修練場の時間が止まった。


「……え?」


「アデラーン・グランディス?」


「まさか……!」


「団長と共に魔王討伐へ赴いた、あの英雄ですか!?」


 一人の騎士が息を呑む。


「では……!」


「暗黒騎士……!」


 その言葉をきっかけに、修練場は一気に騒然となった。


「暗黒騎士だと!?」


「あの魔王討伐隊最強の前衛!」


「団長と肩を並べて戦った英雄じゃないか!」


「そういえば!」


「暗黒騎士は魔王討伐の旅でも、常に漆黒の甲冑をまとい、兜で素顔を隠していたと聞いています!」


「素顔を知る者は討伐隊だけだとか……!」


「まさか……!」


「あんなに若かったのか!」


「しかも、あんな穏やかな顔をしていたなんて……!」


 騎士たちは信じられないという表情でアデラーンを見つめる。


 しかし当の本人は、騒ぎなど意に介することなく静かに立っているだけだった。


 やがて近衛隊長が口を開く。


「団長……」


「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」


「何だ」


「これほどのお方が、なぜ今までほとんど知られていなかったのですか」


「魔王討伐の英雄でありながら、暗黒騎士ほどの人物がここまで無名だった理由が分かりません」


 騎士たちも一斉に頷いた。


「確かに……」


「英雄なら王都中が知っていて当然だ」


「なのに、我々でさえ素顔を知らなかった」


 アーサーは苦笑した。


「あいつは昔から名声に興味がない」


「魔王討伐の旅では、常に漆黒の甲冑をまとい、兜で素顔を隠していた」


「素顔を知る者は討伐隊くらいのものだ」


「魔王討伐を終えた後も、王都へ留まることなく二年間は復興支援に尽力した」


「その復興支援を終えると、そのまま故郷ベルフォン村へ帰ってしまった」


「だから世間が知っているのは『暗黒騎士』という異名だけなんだ」


 騎士たちは静かにアデラーンを見つめた。


 名誉も。


 地位も。


 名声も求めない。


 ただ、人々を守るためだけに剣を振るう。


 それが暗黒騎士アデラーン・グランディスだった。


 アーサーは話を続ける。


「先代の魔剣流宗家ロラン殿が亡くなった時」


「アデラーンはまだ魔剣流四段だった」


「魔剣流では宗家自ら昇段を認める」


「その宗家を失ったことで、昇段審査そのものが行えなくなった」


「実力があっても、四段のまま止まるしかなかったのだ」


 騎士たちは静かに頷く。


 アーサーは懐かしそうに笑った。


「そこで私が紹介した」


「私も若い頃に修行した、アルベール流本部道場だ」


 修練場がざわつく。


「本部道場……!」


「アルベール家宗家と本家が直接指導する、あの本部ですか!」


 アーサーは頷く。


「本部道場の昇段審査は極めて厳しい」


「受験者同士が倒れるまで立ち合う勝ち抜き方式」


「一度でも押し込まれれば、その時点で失格」


「最後まで立っていた者だけが昇段資格を得る」


「アデラーンは、その勝ち抜き戦を危なげなく勝ち抜いた」


「しかし、それだけでは終わらなかった」


「魔剣流宗家の実力を見極めるため、アルベール家本家六段練士師範との特別立ち合いが組まれた」


 修練場がどよめく。


「結果は数合で試合中断」


「力量差が大きすぎた」


「これ以上続ければ師範が傷付くだけだと宗家が判断した」


 騎士たちは言葉を失う。


「立ち合いはそこで終了」


「残る審査として、基本型、応用型、そしてアルベール流五大套路を演武した」


「あの演武を見れば分かる」


 アーサーは静かに微笑んだ。


「宗家は立ち上がり、こう告げた」


「見事」


「宗家公認」


「アルベール流剣術五段を授ける」


 修練場は再び騒然となる。


「宗家公認五段!」


「だからあれほど洗練された演武だったのか!」


「支部の五段とは訳が違う!」


 アーサーは騎士たちを見回した。


「支部の五段と本部道場の五段では雲泥の差がある」


「まして宗家公認は別格」


「宗家自ら、その実力を認めた証だ」


 そしてセリーヌへ視線を向ける。


「そして彼女はセリーヌ・ブランシュ」


元金ゴールドランク冒険者だ」


 修練場は三度騒然となる。


ゴールドランク!?」


「あの若さで!」


「だから第三師団長に勝てたのか!」


 セリーヌは少し照れながら頭を下げた。


「今は先生の弟子として、魔剣流師範代を務めています」


 騎士たちは改めて二人を見つめる。


 地方流派と侮っていた師弟。


 その正体は、魔王討伐の英雄『暗黒騎士』と、若くしてゴールドランクへ到達した天才冒険者だった。


 修練場を包んでいた空気は、いつしか深い敬意へと変わっていた。

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