第29話 師範代の実力
王国騎士団修練場。
修練場には団長アーサーをはじめ、副団長、近衛隊長、六師団長、副師団長、選抜大隊長ら二十七名の騎士が集結していた。
アーサーは集まった騎士たちを見渡し、静かに口を開く。
「誰でもいい」
「この二人の実力を、その剣で確かめてみろ」
一瞬の静寂。
その時だった。
一人の騎士が前へ歩み出る。
それを見た騎士たちがざわついた。
「おい……」
「第三師団長が行くのか」
「よりにもよってエドガーとは……」
「騎士団でも、とびきり血の気の荒い男だぞ」
「実戦じゃ容赦しない」
「嬢ちゃんも気の毒にな」
「骨の一本や二本で済めばいいが……」
そんな声があちこちから漏れる。
しかしアーサーは止めない。
腕を組んだまま静かに見守っていた。
エドガーは騎士たちの声など意にも介さず、修練場中央まで歩み出る。
木剣を正眼に構え、堂々と名乗った。
「ローズフィールド王国騎士団」
「第三師団長」
「エドガー・ハルトマン」
低く響く声が修練場へ渡る。
セリーヌも静かに木剣を構え、深く一礼した。
「ベルフォン村伝承」
「魔剣流師範代」
「セリーヌ・ブランシュ」
互いに礼を交わす。
静寂が修練場を包んだ。
エドガーは鼻で笑う。
「女は家へ帰れ」
「大好きな師匠の世話でもしている方がお似合いだ」
一瞬。
セリーヌは目をぱちくりさせた。
(えっ……)
(先生のお世話はしたいですけど……)
(毎日ご飯を作って、一緒に暮らして……)
(……って)
(なんで私が先生を大好きって知ってるんですか!?)
頬がみるみる赤くなる。
(そんなに分かりやすかったですか!?)
慌てて首をぶんぶん振った。
(違います!)
(今は試合です!)
しかし、エドガーは追い打ちをかける。
「所詮、お前は師匠の後ろに隠れているだけの女だ」
「こんな女を師範代にするくらいだ」
「お前の師匠も大したことないんだろう」
その瞬間だった。
セリーヌの笑みが消える。
木剣を握る手へ、静かに力が込められた。
「……訂正してください」
修練場の空気が変わる。
エドガーが眉をひそめる。
「何だと」
「私をどう思われても構いません」
「ですが」
「先生を侮辱することだけは、お許しできません」
「先生は、私が世界で一番尊敬する剣士です」
「魔剣流は、先生が命を懸けて守り抜いてきた流派です」
「この勝負で証明します」
その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
アーサーが静かに右手を上げる。
「始め!」
その合図と同時に、二人は地を蹴った。
ガンッ!
木剣が激しくぶつかり合う。
袈裟斬り。
切り返し。
受け流し。
踏み込み。
横薙ぎ。
乾いた打撃音が修練場へ響き渡る。
五合。
六合。
七合。
十合。
互いに一歩も譲らない。
騎士たちは思わず息を呑む。
「互角だ……!」
「第三師団長とここまで打ち合うとは……!」
エドガーは木剣を交えながら驚いていた。
(女だからと侮ったのは失敗だったか)
(なかなかやる)
一方、セリーヌも歯を食いしばる。
(重い……)
(速い……)
(この人……)
(口だけじゃない)
(さすが王国騎士団第三師団長)
(なかなかの手練れです……!)
エドガーの剣は、まさにアルベール流の真髄だった。
王家御用達。
王国騎士団正式剣術。
一撃ごとに攻守一体。
攻めながら守り。
守りながら攻める。
攻守ともに一切の隙がない。
すべての動きが理にかなっていた。
軽やかな歩法で間合いを支配し、わずかな隙を見つけると、一気に攻め込んでくる。
だが、その攻防の中で、セリーヌはエドガーの重心がほんの一瞬だけ前へ流れたことを見逃さなかった。
(今……!)
先生が何度も教えてくれた。
――剣は、まず相手を崩すことから始まる。
心を静める。
呼吸を整える。
全身の力を一本の剣へ集約する。
「えぇぇぇぇぇぇいっ!」
一の剣――崩剣。
パァンッ――!!
乾いた破裂音が修練場へ轟いた。
次の瞬間。
エドガーの木剣は根元から真っ二つに折れていた。
修練場がどよめく。
「木剣を折った!」
「なんという威力だ……!」
しかし、エドガーは折れた木剣を見つめると鼻で笑った。
「古い木剣だっただけだ」
「もう一本だ」
新しい木剣が運ばれてくる。
エドガーは静かにそれを握り締め、左手を刀身へ添えた。
土色の魔力が、ゆっくりと木剣を包み始めた――。




