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第23話 最初の道場破り

 魔剣流道場を開門して一週間。


 門下生は相変わらず一人も現れなかった。


 しかし、その代わりに門を叩く者がいた。


「頼もう!」


 張りのある声が道場へ響く。


 アデラーンが門を開けると、一人の剣士が立っていた。


 年の頃は三十前後。


 鍛え上げられた体躯に、整った道着。


 腰には一振りの剣が下げられている。


 胸元には、一羽の黒い鷹を模した紋章。


 王都では名の知れた中堅流派――レイヴン流の紋章だった。


 剣士は静かに一礼する。


「レイヴン流師範代、ガイ・アシュフォード」


「腕試しをお願いしたい」


 礼節を重んじる態度だった。


 アデラーンも一礼を返す。


「歓迎する」


「相手は師範代が務める」


「セリーヌ」


「はい」


 セリーヌは木剣を手に前へ出る。


「魔剣流師範代、セリーヌ」


「よろしくお願いいたします」


 ガイは一瞬だけ驚いた。


「女性が師範代とは」


 しかし、すぐに気持ちを切り替えた。


「……承知した」


 二人は礼を交わし、木剣を構える。


 静寂が道場を包む。


「始め!」


 合図と同時に、ガイが鋭く踏み込む。


 さすがは王都でも名の知れた中堅流派の師範代。


 踏み込みに迷いはなく、鋭い袈裟斬りがセリーヌへ迫る。


 しかし。


 セリーヌは微動だにしない。


「一のいちのけん――崩剣ほうけん


 木剣が静かに走る。


 わずかに軌道が逸れ、ガイの剣筋が崩れた。


「なっ……!」


 その一瞬の隙を、セリーヌは逃さない。


「二のにのけん――返月へんげつ


 流れるような返しの一太刀。


 木剣の切っ先が、ガイの喉元でぴたりと止まった。


 勝負は決した。


 わずか二太刀。


 魔剣流基本五型のうち、一の剣と二の剣だけで終わっていた。


 道場に静寂が訪れる。


 ガイはしばらく呆然と立ち尽くしていたが、やがて苦笑しながら木剣を下ろした。


「……参った」


「まさか基本二つだけで負けるとは」


 セリーヌも木剣を下ろし、深く一礼した。


「ありがとうございました」


 ガイも礼を返す。


「礼節も技も見事だった」


「魔剣流」


「聞いたことのない流派だったが、本物だ」


 その言葉に、アデラーンは静かに頷く。


「礼を言う」


 ガイは一礼すると、静かに道場を後にした。


 その日の夕方。


 王都の剣士たちの間で、一つの噂が流れ始める。


 ――王都に、とてつもなく強い無名流派が現れた。


 ――しかも師範代は若い女性らしい。


 その噂は少しずつ広まり、新たな道場破りたちを魔剣流道場へ呼び寄せることになるのだった。

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