第17話 王都ローズガーデン
ベルフォン村を発って数日後。
二人はローズフィールド王国の王都、ローズガーデンへ到着した。
王国最大の城下町。
石畳の大通りには多くの人々が行き交い、商人たちの威勢の良い声が響いている。
武具店。
魔道具店。
甘味処。
冒険者ギルド。
どこを見渡しても活気に満ち溢れ、ベルフォン村とはまるで別世界だった。
「懐かしいですね」
セリーヌは嬉しそうに街並みを見渡す。
「三年ぶりです」
「ああ」
アデラーンも静かに頷いた。
「賑やかな街だな」
「先生は初めての王都ですよね」
「まずは宿を取りましょう」
「明日から道場探しです」
二人は宿屋へ向かった。
宿の主人は申し訳なさそうに頭を下げる。
「今日は旅人が多くてねぇ」
「空いている部屋は一部屋だけなんですよ」
「一部屋……?」
セリーヌの鼓動が大きく跳ねる。
(えっ……!?)
(先生と二人きり!?)
(む、昔なら普通だったよ!?)
(十年間ずっと一緒に暮らしてたし……。)
(でも今は違う!)
(私はもう子どもじゃないんだから……!)
一人で顔を真っ赤にしている横で、アデラーンは何事もないように頷いた。
「構わん」
「その部屋を頼む」
「ありがとうございます」
二人は部屋へ案内される。
室内は広く、旅人が二人で泊まるには十分だった。
丸机。
食卓。
窓際には椅子が二脚。
そして奥には、大きな寝台が一つ置かれている。
セリーヌは思わず寝台を見つめた。
(ひ、一つ……。)
(ど、どうするの……。)
心臓がうるさいほど鳴っていた。
その時だった。
荷物を置いたアデラーンが振り返る。
「セリーヌ」
「はいっ!」
思わず大きな声が出る。
「疲れただろう」
「先に休め」
「え……?」
「俺は少し外を見てくる」
そう言って窓際へ歩き、王都の街並みを静かに眺める。
その横顔を見つめながら、セリーヌは胸を押さえた。
(もう……。)
(先生は本当に何も意識してないんだから……。)
長旅の疲れもあり、夕食を済ませると二人は部屋へ戻る。
静かな夜だった。
セリーヌは何度もアデラーンの方をちらちらと見る。
(先生……。)
(昔は平気だったのに。)
(今は、なんだか落ち着かないよ……。)
意を決して声を掛ける。
「せ、先生?」
返事はない。
「先生?」
もう一度呼ぶ。
それでも返事は返ってこない。
見ると、アデラーンは壁にもたれたまま腕を組み、静かな寝息を立てていた。
「……寝てる」
思わず吹き出してしまう。
魔王討伐。
故郷への帰郷。
そして王都までの長旅。
誰よりも疲れていたのだろう。
セリーヌは毛布をそっと肩へ掛ける。
「おやすみなさい、先生」
優しく微笑む。
先生は昔から何も変わらない。
そんなところも、大好きだった。
王都で始まる新しい生活。
その第一歩は、二人らしい穏やかな夜から始まるのだった。




