第16話 旅立ち
翌朝。
ベルフォン村は、雲一つない青空に包まれていた。
魔剣流道場の庭には、旅支度を終えたアデラーンとセリーヌが並んで立っている。
荷物は決して多くない。
必要最低限の衣類。
生活用品。
そして、長年使い続けた木剣。
アデラーンは静かに道場を見渡した。
磨き上げられた床。
壁に掛けられた木剣。
何十年もの間、門下生たちの掛け声が響いていた稽古場。
幼い頃、師ロランに叱られながら剣を振った日々。
宗家を継ぎ、門下生を育てた日々。
幼いセリーヌと出会い、親子のように過ごした十年間。
すべての思い出が、この道場には刻まれていた。
長い沈黙のあと。
アデラーンは静かに目を閉じる。
そして、ゆっくりと息を吐いた。
「……行こう」
その一言に、セリーヌは力強く頷いた。
「はい、先生」
二人は道場へ向き直る。
深く一礼した。
師ロランから受け継いだ魔剣流。
この場所で積み重ねてきた日々。
そのすべてを胸に刻みながら。
アデラーンは静かに呟く。
「師匠」
「魔剣流は終わらせません」
「必ず未来へ繋いでみせます」
穏やかな風が庭を吹き抜けた。
木々が優しく揺れる。
まるで、ロランが背中を押してくれているかのようだった。
セリーヌはアデラーンの隣へ並ぶ。
「先生」
「王都には、きっと先生の強さを必要としている人たちがいます」
「魔剣流を学びたい人も、きっと現れます」
アデラーンは小さく笑う。
「そうだといいな」
門へ向かって歩き出す。
一歩。
また一歩。
住み慣れた故郷を後にする足取りは決して軽くはなかった。
それでも、その歩みが止まることはない。
守るべきは場所ではない。
師ロランから託された魔剣流、そのものだからだ。
セリーヌも先生の隣を歩く。
もう二度と、一人にはさせない。
その想いを胸に。
二人は並んで村をあとにした。
目指すは、王都ローズガーデン。
新たな門下生との出会い。
新たな仲間との出会い。
そして――
魔剣流の新たな歴史が、今、静かに幕を開けようとしていた。




