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第15話 未来

 立ち合いから数日後。


 夕暮れの魔剣流道場。


 稽古を終えたアデラーンとセリーヌは、縁側に並んで腰を下ろしていた。


 西の空は茜色に染まり、涼しい風が庭を吹き抜けていく。


 静かな時間だった。


 その沈黙を破るように、アデラーンがぽつりと呟く。


「……困ったものだ」


 セリーヌは隣を見る。


「どうしたんですか、先生」


 アデラーンは静かな道場を見つめた。


 広い道場。


 磨き上げられた床。


 整然と並ぶ木剣。


 しかし、そこに門下生の姿はない。


「誰も来ん」


 短い一言だった。


 その言葉には、宗家としての寂しさが滲んでいた。


「平和な時代になった」


「魔物に怯えて暮らす必要もなくなった」


「剣術そのものを学ぼうという者が減っている」


 アデラーンは苦笑する。


「まして魔剣流だ」


「毎日、基本ばかりだ」


「稽古は厳しい」


「地味で華やかさもない」


「今の時代に好まれる流派ではない」


 王都には三大流派がある。


 王家御用達のアルベール流。


 華麗な剣で人気を集めるグランツ流。


 豪快な力を誇るバルディア流。


 どれも名声があり、多くの門下生を集めている。


 一方で魔剣流は、ベルフォン村に伝わる地方流派。


 王都ではほとんど知られていない。


「このままでは……」


「魔剣流は俺の代で終わるかもしれん」


 その言葉に、セリーヌは胸が締め付けられた。


 先生は、自分のことでは悩まない。


 悩むのはいつも、人のこと。


 そして、師ロランから受け継いだ魔剣流のことだった。


 しばらく沈黙が流れる。


 やがてセリーヌは、静かに口を開いた。


「先生」


 アデラーンが顔を上げる。


「王都ローズガーデンへ行きませんか」


 アデラーンは少し驚いたように目を瞬かせた。


「王都……か」


 セリーヌは力強く頷く。


「魔剣流を未来へ残しましょう」


「王都なら人も多いです」


「私の知り合いもいます」


「先生の強さを知れば、きっと入門したい人が現れます」


 アデラーンは黙って夕焼けを見つめる。


 ベルフォン村。


 師ロランと過ごした思い出。


 幼いセリーヌを育てた日々。


 リュカやリリアと汗を流した道場。


 すべて、この場所にある。


 簡単に離れられる故郷ではなかった。


 セリーヌは優しく微笑む。


「先生」


「魔剣流は、この道場だけにあるものじゃありません」


「先生がいる場所が、魔剣流です」


 その言葉に、アデラーンは静かに目を閉じた。


 魔剣流を守るために、この場所を守るのか。


 それとも。


 魔剣流を未来へ残すため、新たな場所へ踏み出すのか。


 夕日に染まる道場を見つめながら、アデラーンは静かに考え続ける。


 師ロランから託された流派を、未来へ繋ぐために。

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