第14話 暗黒魔剣
立ち合いを終え、稽古の片付けをしていた時だった。
セリーヌは木剣を抱えたまま、アデラーンの前へ歩み寄る。
「先生」
「お願いがあります」
アデラーンは木剣を布で拭く手を止めた。
「何だ」
セリーヌは真っ直ぐその瞳を見つめる。
「暗黒魔剣を教えてください」
静かな風が二人の間を吹き抜けた。
暗黒魔剣。
魔剣流奥伝。
生命力までも魔力へ変換し、絶大な力を引き出す秘奥義。
四段昇段の受験資格にも必要とされる、魔剣流最大の壁だった。
アデラーンは少し目を閉じると、静かに首を横へ振った。
「教えん」
その一言に、セリーヌは目を見開く。
「どうしてですか」
「私は三段です」
「四段を目指したいんです」
アデラーンはゆっくり立ち上がり、木剣を手に取る。
「暗黒魔剣は、暗黒とも暗黒剣とも違う」
「体内や周囲の魔素だけでは足りず、自らの生命力までも魔力へ変換する技だ」
「使えば、それだけ命を削る」
「一歩間違えれば、そのまま命を落とすこともある」
静かな口調だった。
だからこそ、その言葉には重みがあった。
セリーヌは唇を噛み締める。
「それでも覚えたいです」
「先生を守れるくらい、強くなりたいんです」
その言葉を聞いたアデラーンは、小さく微笑んだ。
「だから教えられん」
セリーヌは首を傾げる。
「え……?」
アデラーンはそっとセリーヌの頭へ手を置いた。
「お前は、俺の大事な娘だからな」
その瞬間。
セリーヌの思考が真っ白になった。
(私のこと……)
(大事って……)
(そんなこと言われたら……)
胸が高鳴る。
顔が熱くなる。
心臓がうるさいほど鳴り響く。
先生は、自分を大事に思ってくれている。
その一言だけで、胸は簡単に撃ち抜かれてしまった。
だが。
当のアデラーンは、そんなセリーヌの様子にまったく気付いていない。
「娘を危険な技で傷付ける親がいるか」
「暗黒魔剣は、まだ教えん」
そこにあるのは恋心ではない。
ただ、大切な娘を案じる父親のような愛情だけだった。
セリーヌは胸を押さえながら、小さく頷く。
「……はい」
先生の気持ちは分かっている。
これは親子としての言葉。
それでも。
「大事な娘」
その一言は、セリーヌの心を誰よりも優しく満たしていた。
アデラーンは木剣を手に取り、静かに言う。
「焦るな」
「強さとは、命を削って得るものではない」
「生きて帰ることもまた、強さだ」
その言葉を胸に刻みながら、セリーヌはもう一度深く頭を下げた。
「はい、先生」
頬はまだ、ほんのり赤く染まっていた。
しかしアデラーンは最後まで、その理由に気付くことはなかった。




