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第9話 三年

 ――それから三年。


 世界各国から選び抜かれた少数精鋭の魔王討伐隊。


 大聖女ミュゲ。


 聖騎士アーサー。


 学者クロエ。


 大魔術師サンセリテ。


 そして、暗黒騎士アデラーン。


 五人を中心とする英雄たちは、数え切れない激戦を乗り越え、ついに魔王ニコラスを討ち果たした。


 長き戦乱は終わりを迎え、世界はようやく平和を取り戻す。


 焼け落ちた町は復興し、荒れ果てた畑には再び緑が芽吹いた。


 子どもたちの笑い声が戻り、人々は戦火に怯えることなく暮らせる日々を取り戻す。


 英雄たちの名は世界中へ広まり、その偉業は後の世まで語り継がれることとなった。


 一方、その頃。


 王都ローズガーデン。


 セリーヌは冒険者として数々の依頼をこなし、その名を王都中へ轟かせていた。


 魔物討伐。


 護衛任務。


 盗賊討伐。


 救助依頼。


 どんな依頼にも全力で挑み、一つひとつ確実に成功へ導く。


 やがて実力を認められ、冒険者最高位の一つであるゴールドランクへ昇格。


 その上には、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトの各ランクが存在する。


 しかし、その領域へ到達できる冒険者は世界でもごくわずか。


 ゴールドランクですら、王国に数えるほどしか存在しない実力者だった。


 それでも、セリーヌの日課だけは変わらない。


 夜明け前に起きる。


 木剣を握る。


 一のいちのけん――崩剣ほうけん


 二のにのけん――返月へんげつ


 三のさんのけん――流風りゅうふう


 四のよんのけん――横掃千軍おうそうせんぐん


 五のごのけん――退歩蔵鋒たいほぞうほう


 そして。


 暗黒あんこく


 暗黒剣あんこくけん


 先生から受け継いだ剣を、一日たりとも欠かすことなく振り続けていた。


 先生との約束を守るため。


 いつ帰って来ても、胸を張って会える弟子でいるため。


 その日の午後。


 依頼を終えたセリーヌは、冒険者ギルドで報酬を受け取っていた。


 その時。


 近くの冒険者たちの話し声が耳に入る。


「聞いたか?」


「ベルフォン村に、とんでもなく強い剣士が現れたらしいぞ」


「そんな田舎にか?」


「銀ランクが道場破りを仕掛けたらしいんだが、一太刀も浴びせられず返り討ちだってよ」


「しかも木剣一本で、だ」


 セリーヌの手が止まる。


「木剣……?」


 胸が大きく高鳴る。


 冒険者はさらに続けた。


「なんでも昔からある無名の道場らしい」


「名前は……」


「魔剣流」


 その瞬間。


 セリーヌの瞳が大きく見開かれた。


 十年前。


 毎日聞いていた木剣の音。


 先生の背中。


 厳しくも温かい教え。


 すべてが鮮明によみがえる。


「……先生」


 小さく呟く。


 そして次の瞬間。


 セリーヌはギルドを飛び出していた。


「もしかして……」


「先生が帰ってきた!」


 胸の鼓動は抑えられない。


 三年間待ち続けた、大切な人に会うため。


 セリーヌは故郷ベルフォン村へ向かって、一目散に駆け出した。

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