第6話:王都包囲網:鉄鋼と魔力の防衛戦
「報告! 聖教国強硬派の先遣隊、総勢二千! 王都西門から三キロの地点に展開完了!」
「伝令! 彼らは『浄化の光陣』の準備に入っています。あれが発動すれば、王都は丸ごと消滅します!」
管理センターに飛び込んでくる絶望的な報告の数々に、エルナの顔から血の気が引いていく。
前回の査察で、セレスティアはある程度の理解を示した。しかし、聖教国内の「保守本流」にとって、健太が進める脱魔法化は、自分たちの支配体制を根底から覆すテロ行為に等しかったのだ。
「セレスティア様はどうした?」
俺は、設計図を広げながら短く問う。
「彼女は……強硬派の枢機卿を説得しようとして、逆に『異端に毒された』として軟禁されたようです!」
「最悪だな。……だが、予定通りだ。エルナ様、王都中の『避雷針』の接続を確認しろ」
「えっ……避雷針、ですか?」
王都の西側に広がる丘。そこには、黄金の鎧を纏った聖騎士たちが整然と列を成していた。
中央で馬に乗る老枢機卿が、冷酷な目で街を見下ろす。
「無知なる民に、神の怒りを見せよ。魔法を捨てた罪の重さを、その身に刻むがいい」
彼らが一斉に杖を掲げると、空に巨大な魔法陣が描き出された。
王都の全域を覆い尽くさんとする、超広域殲滅魔法『レクス・ルミナス』。集束されたマナが白熱し、太陽よりも眩しい光の奔流となって街へと降り注ごうとした――。
「全系統、接地開始!」
俺の号令とともに、王都の至る所に設置されていた「鉄の塔」が一斉に火花を散らした。
風車の支柱、教会の尖塔、そして急造された鉄鋼の杭。それらすべては、地下に埋設された太い銅線によって繋がれ、一つの巨大な**『ファラデーケージ(電磁シールド)』**を形成していた。
ドォォォォォォン!!
凄まじい轟音とともに、白い光の柱が王都を直撃した。
だが。
街が焼き払われることはなかった。
降り注いだ膨大なマナのエネルギーは、健太が配置した鉄鋼の網に吸い込まれ、そのまま地中へと逃がされていく。光の奔流は、街を避けるように火花となって散り、王都の周囲の地面を激しく焼くだけに終わった。
「……なっ!? 聖なる光が……街を避けたというのか!?」
枢機卿が呆然と声を漏らす。
「避けたんじゃない。俺が『道』を作ってやったんだよ」
俺は管理センターから、拡声器代わりのメガホンを手に取った。
「枢機卿! あんたたちの魔法は、所詮は『高エネルギーの指向性放射』だ! 物理学のルールに従えば、電気と同じように抵抗の低い場所へ流れていく! この街は今、世界で一番頑丈な『避雷針』になってるんだよ!」
「おのれ、賢者……。ならば、騎士団を突撃させよ! 物理的にその鉄塔を叩き壊せ!」
枢機卿の怒号とともに、二千の聖騎士が抜刀し、王都へと駆け出す。
魔法が防がれても、彼らには圧倒的な武力がある。
「健太様、今度は軍勢が……!」
「わかってる。……第2段階だ。エルナ様、無線のスイッチを入れろ」
俺は、王都中の衛兵に配布した小型の『無線通信機』を手に取った。
これまでは、魔法の通信「伝言魔法」が主流だったが、マナが枯渇した戦場では不発が多い。しかし、俺の無線は、風車が作った電気で動き、マナの有無に関係なくクリアに声を届ける。
『各分隊へ。敵は西門に集中している。第3、第4小隊は地下水路を通って敵の背後に回れ。第5小隊は城壁の上から『閃光弾』の準備。……合図で一斉に動くぞ』
聖騎士団は、完璧な連携で進軍してくる。……はずだった。
「……おい、どうした!? 左翼の部隊が止まっているぞ!」
「伝令が戻りません! 命令が伝わっていないようです!」
聖騎士たちは混乱に陥った。
彼らは長年、戦場での連携を「魔力による念話」に頼ってきた。しかし、健太が空中に放った強力な**『ジャミング(電磁妨害)』**が、彼らの念話を完全に遮断していたのだ。
声も届かない、魔法も通じない。静寂の恐怖が聖騎士団を支配する。
そこへ、俺の指示を受けた衛兵たちが、無駄のない動きで死角から現れた。
「……チェックメイトだ」
城壁から放たれたのは、殺傷用の矢ではない。
マグネシウムを主成分とした、現代知識による**『閃光音響弾』**だ。
パァァァン!!
魔法防御を固めていた聖騎士たちの視界が、真っ白に染まる。
目も耳も潰された彼らにとって、闇雲に剣を振るうことすらままならない。そこへ、無線で完璧に連携した衛兵たちが、一人、また一人と「無力化」していく。
わずか数十分。
最強を誇った聖教国の騎士団は、一人の死者も出すことなく、完全に制圧された。
「……魔法を捨て、人の知恵を信じた結果がこれか」
拘束された枢機卿の前に、セレスティアが姿を現した。軟禁を自力で脱出した彼女は、複雑な表情で健太を見つめていた。
「佐々木健太。あなたは、神の領域に踏み込みすぎたのかもしれない」
「いや、俺は人間ができることを効率化しただけだ。……でも、セレスティア。これでわかっただろ? 魔法は万能じゃない。そして、独占すべき力でもないんだ」
俺は、ひび割れた枢機卿の杖を拾い上げた。
その中にも、地下水道で見つけたのと同じ「赤い結晶」の欠片が、隠されるように埋め込まれていた。
「……枢機卿。あんた、これをどこで手に入れた?」
枢機卿は青ざめた顔で黙秘した。
だが、その視線は、王都のはるか北方――万年雪に覆われた山脈の先を指していた。
「聖教国の中枢まで汚染されているのか。……どうやら、この産業革命、まだまだやるべきことが多そうだな」
俺は、勝利に沸く市民たちの声を背に、設計図の「兵器」のページを閉じた。
次のページに記されていたのは、戦いのためではない、もっと平和で、もっと大きな「夢」のインフラだった。
『――大陸横断鉄道計画』。
「エルナ様。次は、世界を繋ごうか」




