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第5話:地下水道の反逆者:赤い結晶の正体

聖女セレスティアが去った後、王都に束の間の平穏が訪れたかに見えた。だが、俺――佐々木健太――の心は晴れなかった。設置したばかりの魔力センサーが、王都の足元から不気味な「不協和音」を検知し続けていたからだ。


「……間違いない。地下水道の特定エリアで、マナの密度が異常なほど高まっている。それも、自然なマナじゃない。澱んだ、腐ったような反応だ」


俺は作業着の上から、急造した防弾・防魔機能を持つタクティカルベストを締め直した。


「健太様、志願した衛兵たちの準備が整いました。……でも、本当に地下へ行くのですか?」

エルナが不安げに尋ねる。彼女の背後には、松明たいまつではなく、俺が配備した最新の『LED強力ライト』を構えた衛兵たちが控えていた。


「ああ。癌細胞は早いうちに叩かないと、せっかく作ったインフラが根こそぎやられるからな」


地下水道は、湿った冷気と鼻をつく異臭に満ちていた。

かつては魔法で浄化されていたはずの場所だが、今は魔粉グリットと泥が混じり合い、足元を滑らせる。


「ライトを点けろ。壁際を警戒しろ」


俺の指示で、真っ白な光の束が暗闇を切り裂く。

しばらく進むと、通路の至る所に「赤い結晶」が脈打つように突き出しているのが見えた。それはまるで、巨大な生物の血管が地表に浮き出ているかのようだ。


「これは……マナの結晶? でも、こんな色は見たことがありません。まるで見ているだけで、頭が割れそうに……」

衛兵の一人が苦悶の表情を浮かべる。


精神防壁ノイズキャンセラーのスイッチを入れろ! 奴はマナを『毒』に変えて撒き散らしている!」


俺が叫んだその時、通路の奥から乾いた笑い声が響いた。


「――素晴らしい。魔法も使えない猿が、これほど正確に私の『傑作』を分析するとはな」


奥の広間に、一人の男が立っていた。

ボロボロの賢者装束を纏い、肌は赤黒い血管が浮き出て変色している。その手には、巨大な赤い結晶が埋め込まれた杖が握られていた。


「あんたが、この騒動の主か。……元・宮廷賢者のザガンだな?」


「いかにも。魔法を捨て、鉄の車輪などというガラクタを崇める愚か者どもに、真の魔法の『力』を思い出させてやろうと思ってな」


ザガンが杖を振ると、周囲の赤い結晶から黒い霧が噴き出した。

それは瞬時に形を成し、以前戦った「魔粉獣グリット」よりも一回り巨大で、知性を持ったかのような動きをする影へと変わる。


「健太様! 囲まれました!」

「慌てるな。……エルナ様、例の『高周波散布機』の準備を。衛兵は散開しろ!」


ザガンが冷笑する。

「無駄だ。今の私に宿るマナは、世界の悲鳴そのもの。物理的な衝撃など、闇に吸い込まれるだけだ!」


「物理が効かない? ……そう言われると、エンジニアとしては燃えるんだよな」


俺は腰のベルトから、一つの筒状のデバイスを取り出した。

それは、魔法を使わない俺たちが、魔法使いに唯一対抗するために設計した「現代知識の結晶」だ。


「ザガン。あんたは『共振現象』って言葉を知ってるか?」


「何……?」


「どんなに強固な物質やエネルギー体でも、特定の周波数で揺さぶれば、内部から崩壊する。あんたが操るその『汚染マナ』にも、固有の振動数があるはずだ」


俺はデバイスを起動した。

キィィィィィィン、という耳鳴りのような音が地下水道に響き渡る。


「ターゲット・ロックオン。周波数調整チューニング……完了だ」


俺がボタンを押した瞬間、デバイスから放たれた「不可視の波」が、ザガンの操る黒い霧を直撃した。


ガガガガッ! と、空間が歪むような激しい異音が響く。

先ほどまで無敵を誇っていた影たちが、まるでテレビの砂嵐のように激しく点滅し始め、形を維持できずに崩れていく。


「なっ……何をした!? 私の魔法が……霧散していく!?」


「あんたの魔法を『打ち消した』んじゃない。あんたの魔法の『繋ぎ目』を激しく揺さぶって、バラバラにしてやったんだ。壊れやすいグラスを高い声で割るのと同じ理屈だよ」


俺は容赦なく距離を詰め、次の一手を放つ。


「エルナ様、今だ! 液体窒素弾コールド・スプレーを投下!」


「はいっ!」


エルナが投げた瓶が、ザガンの足元で砕けた。

瞬間、マイナス190度近い冷気が広がり、赤い結晶とザガンの足を一瞬で凍りつかせる。


「ぐあああ! 足が、足が動かん!」


「汚染マナってのは熱量が高いからな。急激に冷やせば、結晶構造が耐えきれずに脆くなる。……これで終わりだ」


俺は、タクティカルベストに装備していた特殊合金の警棒を伸ばした。

現代の冶金学で作られた、魔法防御を無視するただの「硬い棒」だ。


バキィィィィン!


俺が一振りすると、凍りついて脆くなったザガンの杖が、ガラス細工のように粉々に砕け散った。


「私の……私の魔法が、ただの物理的な衝撃で……」


ザガンはその場に崩れ落ちた。

杖を失ったことで、周囲の赤い結晶も輝きを失い、ただの不気味な石ころへと変わっていく。


「……ふぅ。これで一旦は、地下の汚染源は制圧したな」


俺は荒い息を吐きながら、砕けた赤い結晶の破具を拾い上げた。

その中心には、まだ微かに、不気味な黒い光が脈打っていた。


「健太様……大丈夫ですか?」

エルナが駆け寄ってくる。


「ああ。でも、ザガンはただの実行犯だ。あいつにこの『汚染マナの抽出法』を教えた黒幕がどこかにいる」


俺は地下水道のさらに奥、まだ光の届かない闇の先を見つめた。

設計図アーカイブには、まだ多くの「防衛兵器」のページが残っている。


「エルナ様。次は王都に『検疫システム』を作ろう。魔力を持ち込む奴ら全員をスキャンするんだ。……異世界での生活も、どんどん物々しくなってきたな」


「健太様の作るものはいつも不思議ですが……不思議と、安心します」


エルナの笑顔が、LEDの光に照らされて輝いた。

だが、その時。

俺のデバイスが、地上からの緊急通信を拾った。


『――緊急連絡! 健太様、エルナ様! 王宮に……聖教国の軍勢が、今度は軍隊として押し寄せてきています! セレスティア様が止めていますが、強硬派が「異界の排除」を叫んで……!』


「……休憩時間は終わりか」


俺は再びライトを掲げた。

科学と魔法、そして政治が入り乱れる異世界の戦いは、まだ序盤を終えたばかりだった。

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