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第3話:ブラック・アウト:闇に光る瞳

「報告しろ! 停電ブラックアウトの範囲は!?」


王都の一角に設営された『エネルギー管理センター』――実態は、古びた物置小屋に手作りの配電盤を並べただけの急造施設だが――に、俺の怒鳴り声が響いた。


「だ、だめです! 第1区から第4区まで、すべての街灯が消えました! 蓄電池バッテリーとの接続も強制的に遮断されています!」


エルナが必死にレバーを操作するが、反応はない。数日前、あんなに美しく王都の夜を照らした「電照街灯」の灯りは、今や一筋も残っていなかった。


時刻は深夜2時。最も深い闇が訪れる時間だ。


「おかしいな。過負荷オーバーロードならブレーカーが落ちるだけだ。全系統が同時に死ぬなんて、物理的な破壊か、さもなければ……」


俺は窓の外を見た。

そこには、ただの闇ではない、「動く闇」があった。


灰色の空から降る『魔粉』が、街のあちこちで渦を巻いている。その中心で、赤黒い光を放つ瞳がいくつも浮き上がった。


「あれは……魔粉獣グリット!?」


エルナが悲鳴に近い声を上げる。

魔力枯渇によって変質したマナの残滓が、大気中の塵と結びついて実体化した怪物だ。奴らは、純度の高いエネルギーを喰らう性質がある。


「なるほど。魔法を捨てて『電気』に切り替えたことで、奴らにとって街全体が巨大な餌場に見えたわけか……。皮肉なもんだな、クリーンエネルギーが怪物を呼び寄せるとは」


ギチギチと音を立てて、魔粉獣たちが管理センターの扉を叩く。

王都の衛兵たちはパニックに陥っていた。彼らの武器は、魔力を込めて威力を増す「魔導剣」。だが、マナが枯渇したこの状況では、ただの重い鉄の棒に過ぎない。


「賢者様! 逃げてください! 衛兵たちでは、魔法なしであの化け物を抑えることは不可能です!」


「逃げてどうする。ここでインフラを捨てたら、また暗黒時代に逆戻りだぞ」


俺は全知の設計図アーカイブを高速で検索した。

対・魔粉獣用の兵器? そんなものはない。

だが、奴らの正体は「微粒子」と「不安定なエネルギー」の複合体だ。ならば、物理法則に従った弱点があるはずだ。


「エルナ様、王立研究所から借りてきた『高圧放電瓶』と、建設用の『銅網』はどこだ!?」


「あ、あそこに! でも、あんな小さな瓶で何ができるのですか?」


「魔法で勝てないなら、**『物理現象』**で除菌してやる」


俺は机の上に設計図を広げ、エルナと数人の職人たちに矢継ぎ早に指示を出した。

敵は「電気」を求めて集まっている。なら、その電気を「餌」ではなく「罠」に変えるまでだ。


「いいか、第1系統の蓄電池をフル稼働させる。安全装置セーフティは全部外せ。導線をこの銅網に繋いで、建物の外壁をぐるりと囲うんだ!」


「そんなことをしたら、建物全体が雷の塊になってしまいます!」


「それでいい! あと、これを……『超音波発信機』の設計図だ。急いで組み立てろ。構造は単純だ。高周波で空気を震わせ、奴らの結合を揺さぶる!」


外では、魔粉獣が建物の壁を食い破ろうとしていた。

リードしていた個体が、赤黒い触手を伸ばし、配電盤の隙間に潜り込もうとしたその瞬間――。


「今だ、スイッチ・オン!」


俺がレバーを叩き落とすと同時に、管理センター全体が激しい青白い火花に包まれた。

高圧電流による『電気柵』の展開だ。


ギィアアアアアアアア!


耳を劈くような絶叫。建物に触れていた魔粉獣たちが、強烈な放電によって次々と霧散していく。微粒子の結合が電気エネルギーによって強制的に分解され、ただの灰へと戻っていくのだ。


「効いてる……! 魔法じゃないのに、あんなに簡単に!」


「まだだ、次が本番だぞ!」


俺は屋上に設置した巨大なパラボラ型の装置――即席の「超音波キャノン」の向きを、広場に集結した巨大な魔粉獣の群れに向けた。


「エルナ様、蓄電池の残量をすべてこの回路に回せ! 10秒間だけ、街全体の電力をこの一撃に凝縮する!」


「はいっ! ……充填開始、3、2、1……放てッ!」


目に見えない振動の「壁」が、夜の闇を突き抜けた。

空気が激しく震え、建物の窓ガラスがビリビリと鳴る。

次の瞬間、広場を埋め尽くしていた赤黒い影たちが、まるで砂の城が崩れるように、一斉に崩壊し、ただの塵となって地面に降り積もった。


静寂が訪れる。

王都の夜を支配していた怪物の唸り声は消え、後に残ったのは、静かに回る風車の音だけだった。


「……勝った、のですか?」


エルナが呆然と呟く。

俺は膝をつき、激しく加熱して煙を吹いている蓄電池を見つめた。


「ああ、とりあえずはな。……でも、これはただの自然現象じゃない」


俺は、崩壊した魔粉獣の死骸の中に、一つだけ不自然に光る「赤い結晶」を見つけた。

それは、自然界のマナとは明らかに異なる、どす黒い悪意を感じさせる輝きだった。


「誰かが、奴らを誘導した。……この世界の『魔法』を奪われるのを、極端に嫌がっている奴がいるらしいな」


俺は、懐から取り出した手帳に一筆書き加えた。

『リスク管理項目:人為的なテロおよびサイバー(魔術的)妨害への対策』。


「健太様、見てください」


エルナが指差す先。

管理センターの非常用ライトが、再びパッと灯った。

それは魔法の奇跡でも、神の救いでもない。

俺たちが守り抜いた、泥臭くて、理論的で、持続可能な「知恵の光」だった。


「……さて、エルナ様。明日の朝一番で、伯爵たちを集めて『セキュリティ予算』の増額を勝ち取りに行こうか。この世界を救うには、まだまだ金も資材も足りないからな」


夜明けの光が、灰色の雲の向こうから少しずつ漏れ始めていた。

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