三人のお客様
あのダイニングバーの彼が来てから、三週間が過ぎた。
月が変わり、夜に鳴く虫の声に本格的な秋の訪れを実感する。
その日は、百瀬くんはYの研修の関係で遅れる、と聞いていた。
一人で開店準備を終え、看板を出してすぐのことだった。根津様がお見えになった。
ご多忙な根津様にしては早い時間だった。いつもお一人でお見えになる彼には珍しく、二人のお客様をお連れになって。
「いらっしゃいませ。珍しいですね、こんな早いお時間に。今日はもうお仕事は終わったんですか?」
おしぼりを受け取り、手を拭いながら根津様が答える。
「いや……今日は仕事で来たんだ。」
「お仕事、ですか?そちらの、お連れ様は――」
お取引先とかなのかな、と顔を向けると、五十代だろうか、貫禄のある男性が立ち上がり、お辞儀をしてくる。
「西田と申します。よろしくお願いいたします。」
「西田様、ですね。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
名刺を渡され、両手で受け取りながら、小さく目を落とす。
記載された社名を見る限り、飲食店とかの経営会社かな?代表取締役社長、という肩書きが、重く感じた。
「会長秘書の、堀と申します。突然お邪魔して、申し訳ありません。」
もうお一人の男性――こちらは四十手前といったところか。
品の良いスーツに身を包み、知的な印象を受ける。
「とんでもございません。本日はお越しいただきありがとうございます。」
会長、秘書?
疑問に思いながら、またしても名刺を差し出され、両手で受け取る。
イマイチわかってないな、ということを察してくださったのだろう、根津様が口を挟む。
「あー、その、私の秘書だ。」
そういえば、以前いただいたご名刺に、確かに会長って書いてあった気がする……会長と社長って何が違うんだろ。
「チーフ? もしかして、あんまりわかってないだろ。」
呆れたように苦笑いを浮かべ、根津様が突っ込む。
「まったく……まあ、チーフは本職が美大生、ということだし、会社経営について知識がないのは仕方ないだろうが。もう少し、そういうことにも興味を向けた方がいいと思うぞ?」
その言葉に、お連れ様が二人で目を見開く。
もしかして、この二人を驚かせるためだけに連れて来た、とか……まあ、さすがに根津様に限ってそんなことはないか。
「申し訳ありません、不勉強でして。精進いたします。」
「まあ、それは今は問題ではないんだ。今日は、西田君。彼にバーの世界を見せてあげたくてね。」
「さようでございますか。かしこまりました。では、皆様何をお飲みになりますか?」
良かった、難しい話は終わったようだ。
会社がどうとか、根津様の仰る通り、きっと学んでおいて損はないと思う。
だけど、今はそのことを学ぶほどの余裕は取れそうにない。
ひとまず、お二人にメニューを差し出す。
運転があるので、と断ろうとした堀様に対して、根津様が今日は飲むことも仕事だ、とたしなめていた。代行業者であればすぐに連絡が付くことを伝えると、ならありがたく、とメニューを開く。




