暴走
それからは、オレは荒れた。
家に帰ることもまばらになり、高校にも行かなくなった。
街中で目が合ったと因縁を付けては殴り、肩がぶつかったと言っては殴り……そんな風にして知り合った不良仲間の家を転々としながら、歳を誤魔化して水商売を始めたりもした。
水商売は半年もしないうちに歳バレして、クビになったけど。
喧嘩をして、殴り、殴られている時の痛みだけが、オレがまだ生きていることを実感できる瞬間のように感じていた。
そうやって、自暴自棄な喧嘩を、ほとんど毎日繰り返していた。
ある時は、暴走族に入っていた仲間が、抜けようとしてリンチに遭ったと聞いて、数名で相手の集会に乗り込んで叩き潰したこともあった。
ケツ持ちのヤクザが出てきて、慌てて逃げ出したことはしばらく笑い草だった。
そんな風に、たまにバイトをしながら荒れた日々を過ごしているうちに、オレは高三になっていた。
確実に出席日数は足りていないはずだったが、進学校としての見栄なのか、留年や退学処分は出さない方針なのか……知らぬ間に進級していた。
それでも、家にも学校にも、気が向いた時にだけ顔を出すような生活は変わらなかった。
この頃には、親父も半ば諦めていたのかも知れない。
授業にも出ず、テストも解答欄を何も書かずに提出することもあった。
成績は下降線を辿り、学年の最下層にいた。
か細い声で、大学はどうするんだ、と言われるだけだった。
オレが荒れていくのと同時に、親父の強気な姿勢は鳴りを潜め、泣き落としのような声色で大学には行ってくれ、と懇願される。
情けない……抵抗できない相手にだけ、強気に暴力を振るうその姿が――ちっぽけな存在に見えた。
そんな風に荒れた日々にも、終わりの日が訪れた。
仲間と三人で歩いていた、梅雨が始まろうとしていた夜だった。
待ち伏せされていたのか、十人程の相手に取り囲まれた。
相手も強くて、人数も多いもんだから。
あちこち殴られて、蹴られて……やられながらそれでも路地に引き込んで、一人ずつ返り討ちにしていって。
最後に残っていた男には、見覚えがあった。
前に叩き潰した暴走族で、アタマを張っていたヤツだった。
小さなナイフを震える両手で支えて、来るな、来るなと必死に叫んでいる。
一緒にいただけの仲間は、その暴走族とのいざこざには全く関係ないだけのヤツだった。
なのに、ボコボコにされて、顔が腫れ上がり、死んだような青痣を浮かべて倒れている。
中途半端にしたからこうなったんだな――そう思って、徹底的に叩き潰してやろう、とソイツに馬乗りになって殴り続けた。
切り付けられた左腕から、血が流れるのにも構わず。オレの拳が破れるのにも気にせず。相手の意識がなくなっても。
気が付いた時には、雨が降っていた。
倒れていたはずの仲間に取り押さえられていて……雨の冷たさを覚えると同時に、我に返った。
……もう少しで殺すところだった。
親父の暴力の血を、色濃く感じて恐ろしくなった。
その日から、仲間からも距離を置かれるようになって、居場所だと思っていたはずの不良グループにも居づらくなって……仕方なく、家に帰った。
久しぶりの自宅は、梅雨入り時の蒸し暑さとは対照的に寒々として見えた。
期待していた道を大きく踏み外し、自分の願望の器としてのオレへの失望が溢れているような、空虚な家だった。
自室に戻って、もう向かうことのなくなった机の上に、一通の封筒を見つける。
消印は一ヶ月前。
差出人には、苗字の変わった、懐かしい彼女の名前。
胸がざわつく。
彼女の身に、何かあったのか。
震える手で、それでも宝物を開けるように開封した手紙には……。
何度も何度も書き直したような跡を残した、
少しだけ滲んだ、彼女らしい可愛らしい小さな文字。
オレと過ごした日の、楽しかった思い出を振り返り、
出会えたことへの感謝と――そして、急に別れることになってしまったことへの、お詫びの言葉が書かれていた。
最後に、
『大好きだよ、フミくん。またいつか、会えるといいな。』
と、今は誰も呼ぶことのない懐かしい呼び方で……微かに震える文字で書かれていた。
嫌な予感がした。
手紙を持つ手が震え出す。
彼女は、幸せになったはず、なのに。
なんで、今さら。
その日のうちに、ありったけの金を掻き集めて。
差出人の、彼女の名前の横に書かれていた住所に向かった。




