告白の行方
それから、毎日のようにオレは由美子さんと出会った駐車場で待っていた。
彼女は本当に来てくれて、残業で遅くなった時には、ごめんね、なんて言ってくれて。
聞いたことがある。
どうして、無関係のオレなんかのために、こんなにしてくれるんですか、って。
彼女は、笑って応えてくれた。
「オレなんかのために、なんて言葉は好きじゃないよ。私が、フミトくんの話をもっと聞きたいなって思った、それだけだよ?」
そう言って屈託なく笑う彼女の笑顔が眩しくて。
この時には、彼女に惹かれていたんだと思う。
そうして、由美子さんと逢瀬を重ねて。
初めて覚えたその気持ちは、段々と募っていって。
夏休みに入って、少しした時には、もう自分でもこれが恋だということに気が付いていた。
何とかして、この気持ちを伝えたい……。
その時に、オレが頼ったのは――一枚の絵だった。
彼女が好きだと言っていたアーティストのアルバムジャケット。
数少ない高校の友人にお願いして、CDを貸してもらって。
葉書にそのアルバムジャケットの写真を模写していく。
誰かのために絵を描く、というのは初めてのことだった。
夢中になって鉛筆を動かして、描き上げるまでの二日間はあっという間に時間が過ぎて行った。
その日も、約束の時間にコンビニの裏手で待って。
心臓が、聞いたこともないような大きな音を立てる。彼女を待つ時間が、永遠かのように思えた。
駐車場に着いて二十分、彼女の車が入ってくるのが見えた。
心臓が口から飛び出るのかと思うほど、鼓動が大きく脈を打つ。
車に乗り込んで、挨拶をして。
「どうしたの? 今日はなんか緊張してるね。」
彼女の指摘に、冷や汗が流れる。
震える手で、バッグから描き上げた絵を取り出す。
「あの、これ……。」
「ん? ……これ、B'zじゃん! どうしたの、コレ!」
「あ、いや、描きました……。」
「描いた? え、コレ絵なの!? フミトくんが!? すごい! すごいじゃん!」
彼女の嬉しそうな声が、オレの緊張をほぐす。
オレまで嬉しくなるような、特別な声だった。
でも、どうしても伝えたいことがある――。
ゴクリ、と唾を飲み込んで。
「オレ、ずっと、由美子さんに話聞いてもらってて、ずっと助けてもらってて。気が付いたら、由美子さんと一緒にいる時間が待ち遠しくなってて、」
由美子さんは、何かを察したのか、真剣な目でオレの話を黙って聞いてくれる。
「オレ……オレ、由美子さんのことが、す……
好きです。
これからも、ずっと、一緒にいたい。付き合って、ください!」
由美子さんは、少し驚いたように固まってしまう。
そうだよな……。
十歳も下の、こんなガキに告白されたって、嬉しいはずがないよな……。
諦めよう、そう、思った時に。
「ねぇ……。私、フミトくんからしたら、十歳も上の、おばちゃんだよ? 本気で言ってるの?」
慌ててその言葉を否定する。
「おばちゃんなんて、そんな……! 年齢とか、そんなの関係なくて、オレが、由美子さんとずっと一緒にいたいって、そう思ったから、」
「……ねぇ、フミトくん……私もね。最初は、フミトくんが、寂しそうでほっとけないなって、そう思ったの……。でも、こうやって、話をしていく内にさ、もっと話をしていたいな、って。一緒に、いたいなって、思うようになってた。
でもね、」
下を向いて、唾を飲み込む。
「必死で、言い聞かせてたの……。私は、十歳も歳上なんだから、って。フミトくんには、もっと相応しい人がいるはずなんだからって……。諦めよう、って、ずっと思ってた。」
そして、顔を上げて……その目には、涙が溜まっていた。
もう一度、同じ質問をする。
「本当に、私で良いの……? 私、十歳も、歳上なんだよ?」
「オレは、由美子さんがいい。由美子さんと、一緒にいたい……。
だから、付き合って、ください……!」
オレの返事を聞いた由美子さんが、耐え切れなくなったのか、嗚咽を漏らす。
泣きじゃくりながら、何度も頷いてくれる。
「こち、らこそ、よろしく、お願いします……!」
その言葉をきっかけに、どちらからともなく力強く抱き合う。
この温もりを、絶対に手離したくない。
この時、オレは本気でそう思っていた。




