PROLOGUE:みんなの芸能人
「あーここまで来てくれました? アンタも好きになってくれたねぇ。怖い話を。今日は武道館で独演会ということで。永口ツヨシさん以来らしいね。そんなのをココでやるの。ども。第3回スタンドアップスピーチヒーローで優勝しました。篠田林檎です」
武道館で割れんばかりの拍手。彼女はゆっくりと頭を下げて上げる。
「私ね、そういうふうに見られてないけども、今や芸能人なのよ」
笑い声があがる。
「チョット。何で笑うのよ? 何か可笑しいことを話しました? いや、あんな大会で優勝できたから、怪談師ユーチュバーだとか怪談系インフルエンサーだとか変な肩書きはいらないの。怪談師の芸能人ということでね。それで最近、ある人から聞いた芸能界に纏わる怖い話を今日は持ってきました」
ずっとボソボソ喋る彼女だが、マイクがその声を武道館の会場中に響かせる。
「さて、芸能人って何を以て芸能人というのかね? と私はその話をしてきた人から逆に聞かれちゃって。いや、私が聞きたいのよ。ソレ。だけど、その御方は皆さんも凄く知っている有名人のマネージャーを長年勤めあげた人でね」
その当事者はこの独演会の観衆の中にいた。腕を組んで目を閉じて様々な彼の思いを馳せる。篠田林檎に話したオカルトめいた話は彼にとって、さほど怖い話なんかでない。本当に怖いと感じるのはこの世界で生き続けようとする自分だ。
あの日、彼はフジサンテレビとクリスタルエデンが共同にて手掛ける「第3回スピーチヒーロー」の現場にいた。本来ならば、彼がその番組のプロデュースを手掛ける筈だった。そう彼は考えていた。
しかし、彼はその立場を奪われた。彼は自分に変わる存在を補助する立場に。
でも、素直になれない自分がいた。
「松井さん、玄姫さんが思いきり放送コードを超えることを言っちゃいましたが、大丈夫ですかね?」
「おう、仕方ないだろう。生放送だし」
「注意とかしにいったほうがいいです?」
「馬鹿野郎。こういう大会だぞ? そういうのは全部が終わってからでいい」
「わかりました。緊張しますね」
「お前、俺に相談しないと何もできねぇって言うなら、ここから俺と代われ」
「えっ?」
「聞こえないのか! 俺と代われって言っているの!」
そのまま彼は番組プロデューサーを務める鳴沢樹を突き飛ばす。
そこに居合わせたスタッフ達が「何があったのですか!?」「鳴沢さん、大丈夫ですか!?」と彼らに駆け寄る。鳴沢は「大丈夫です……大丈夫」と俯きながら返事を返す。こういった場面はこれが初めてではなかった。
彼はそのまま鳴沢が行こうとしたところに行こうとする。
そこで蔵馬彷徨に止められた。
「おい、ここに来るのはお前一人じゃあねぇだろ?」
「えっ……それは……」
「お前は補助役じゃないのか? 目立っているぞ?」
老獪にして体格の逞しい彼女の威圧は凄まじかった。
そこから番組が進むなかで彼がどうなっていのかを覚えていない。
賢治と有望株の所属タレントとしてブレイク中の中下すずがステージのうえで踊っている。その音楽が永遠と鳴り響くのだ。
そのまま彼はクリスタルエデンの社長室にいた。彼の感覚ではそうだ。
「長いこと、お世話になったなぁ。心あたりがあるのかないのか……それがどうあっても、お前はいじめを働いた。その事実が仲間たちから聞こえてくる以上はもう、庇いきれない。お別れに1本やるよ。キツいからちょっとずつ飲めよ?」
彼はそのときも立ち尽くしている。
賢治から1本のウィスキーを為されるがまま受け取る。
クリスタルエデンが大きくなっていく物語を共にしてきた自分。
それもその物語の裏側をずっと支えてきたのは自分の筈なのに。
「コンチクショウ……」
彼は公園のベンチに座り、涙をこぼしながら賢治の手向けを浴びるように呑む。
このまま死んだっていい。
そんな彼の手にそっと優しく触れる手が。
「ここで死ぬのは勿体ないわ。松井堅人さん」
それはかつて日本の音楽業界の頂点にたった歌手。そして経営者としてそれを今は為している。
彼の奇妙な物語はここからまた始まったと言ってもいい。
いやぁお久しぶりです!DROPOUTの5章がはじまったよ!ということでこっちも5章がはじまります!
こちらは不定期更新という事になるのですが今回は3夜連続での投稿!
松井ね。「メディア王に誰が鳴る」でよく出てきたのですけど、覚えている人っているかな。
楽しんで貰えたらと思います!明日と明後日もお付き合いを(*^.^*)




