~第13幕~
「新しいアイドルをドンドン作っているようで調子良さそうじゃないか。でも、未成年を誘拐して自分の家族にするってやり方はとても合法的と呼べないよな。疋田がいなくても非合法的に飛んでいるのだろう? アンタの頭の中は?」
先攻に打ってでたのは賢治だ。いつものスーツ姿に戻って正攻法で華崎に襲いかかる。
「歌のなかで飛んだことはあるけどね。未成年でもね? 大スターになってゆくチャンスはあるものよ? アナタたち、お笑い芸人達のほうがそういう可能性を広げてあげていないのでは? アナタだって高校で漫才やってテレビにでて。吉原に誘拐されたのでしょう? そこから地下に突き落とされた訳でしょう? どのクチが誰にモノを言っている」
華崎は疲れてない。むしろ最高潮に楽しんでいるようだ。
「俺は生意気で売っているからな。綺麗事は嫌いなのよ。でも、法は護っている。アンタは護っているのか? 神に誓ってとは言わない。無宗教な人が増えてきたからな。今の日本は。だからアンタ自身の倫理に俺は訊ねている。せっかくのメディア出演だ。カッコつけてくれや」
賢治は余裕の微笑みをみせてウィスキーを口にする。
「…………ええ。法を護ってなきゃヴィベックスって家族を護ることもできない。ちょっとヒヤヒヤしたけどね。でも、偉そうなことをアナタが言えるのかなぁ? 例えばそうやってお酒を飲みながらメディアにでるのが駄目だって法律ができたなら禁酒でもするの? しなさそうだけど? どうなの?」
少し言葉に詰まった華崎だが攻撃の手は緩めない。
「いや、ここまできたらもう俺は引き返さないさ。アンタのVoyageすらも超えてくVoyageを世に放つ。俺達は幸せになるため、この旅路をゆくんだ。ほら、このお酒がよく似合う。アンタのレボリューションよりもよっぽど凄いレボリューションだぞ。ウォーイェー! ウォウウォウイェー!! イェー!! こんな業界に流れついたよ! だからアンタに出会えたよ! 何だか嬉しくてさ。でも何だか切なくてさ。ファンはみんな、泣いちゃっているのさ。突然に歌手をやめて。ウォーイェー! ウォウウォウイェー!! イェー!! 軽すぎだわ。わずか3分で終わってしまう四季折々。アンタの人生だ」
一瞬、鬼のような顔をした華崎がカメラに映しだされる。
でも、ほんの一瞬だ。それが見えたのは限られた人間だけだろう。
彼女は微笑んで即座に返す。
「すごい音痴ね。音楽業界に来るな。本物をみせてやる」
彼女は立ち上がり自身の名曲「四季折々」を熱唱する。
試合終了のゴングが鳴っても、それを歌い切るまで続けた。
番組は時間が押していた。彼女が歌っている間に集計を済ませることになる。
やがて結果発表の時がくる。
この大会の司会はクリスタルエデン所属の倉木理亜奈と古本都紙魚が担当していた。都紙魚が勝者を発表する。
「メディア王に誰が笑う2026……優勝は華崎鮎美! うへへへっ!」
ドン!
伊達賢治は小麦粉がたくさん敷き詰められたステージ下に落下した。
手を叩いて笑うリアナと都紙魚。
「いいなぁ。コメディアンは。ああやって負けても格好がつくからなぁ」
「武来庵さんも負けましたけど、我がグループで好感度が抜群にあがりましたよ」
「なんだよ、おまえ、慰めているのか?」
「いや、来年は私がでたいなぁ……なんてね。えへっ」
「ふん。後で伊達に話でもつけておこうか。大浜よぉ」
まだ小麦粉まみれの武来庵が大浜秀明を笑って小突く。
優勝トロフィーを大会アンバサダーが華崎に渡す。
お互いに眩しい笑顔で握手を交わす。
「え~私の芸能人生で初めて歌でないところで賞を頂きました華崎鮎美です。大変に御恩あるクリスタルエデン伊達社長。また田口エンタープライス社長の田口社長。それからギャロップ社長の藤崎武来庵様。綺羅めくるさん、ろっくタケシさんと共演をさせて頂き本当に光栄です。この会場には他にもたくさんの業界人の方々がいらっしゃいます。私も今日は小麦粉塗れになってイイぐらいの軽い気持ちで来ましたが、負けず嫌いの自分がでましたね。つい歌っちゃった。テヘッ。でも、私たちは畑が違って考え方が違っても世の人を楽しく元気づけていきたい。そんなものを日々作って世におくる同士であります。これからも各々できることを頑張って時に競いながらも時に手と手をとりあって盛り上げてゆくことができたらと思います。その先陣を弊社ヴィベックスが担ってゆけるよう、今日より家族一同頑張ります。今日は大変にありがとうございました!」
深々とお辞儀する華崎は誰がどうみても爽やかなカリスマ。
そんな彼女を見て笑顔で拍手する小麦粉塗れの鳴沢。そこに江川傑が寄ってくる。
「チョットいいか?」
「えっ!? こんなときにナルさんを口説くつもり!?」
「うるせぇよ。テメェは。するにしてもこんなタイミングでするか」
同じく小麦粉塗れになった中下すずの介入に傑は真顔でつっこむ。
「何ですか? 傑さんってチビだし乱暴だしマジで私のタイプでないですけど?」
「だからナンパじゃねぇって! 乱暴でもねぇよ! 何で俺にそういうキャラが定着したのよ!? あそこ! あそこの御方が1時間ぐらいは君のインタビューに応じるってさ!」
傑の指さしたところにいるのは小麦粉塗れのろっくタケシ。
このあと、小麦粉塗れになった鳴沢とタケシの対談動画の撮影がおこなわれる。
タケシは幼き頃の鳴沢のことを覚えており「覚えているよ。大きくなったね。さっきのネェちゃんとの漫才? オイラは良かったと思うよ?」と気さくに応じてくれる。鳴沢がこれから撮る作品への出演も「よろこんで。いつでも会社に電話してね」と言ってまでくれた。まるで夢のようなひととき。だけど、酔いしれてはいけない。鳴沢は鳴沢樹としてのヴィジョンをいよいよ描いていかねばならぬと胸に。
賢治は小麦粉地獄の中でずっと天井を見上げる。
番組の中継は終わって片付けが始まる。
「いつまでそうしているの?」
賢治に声をかけてくれたのは彼が尊敬する女王様。
「蒼月さん」
違った。蒼月しずくだ。
彼女の手をとって彼は起き上がる。
「牛仁朗さんと月巫女さんがこの後に飲みに来ないかって」
「たまにはそういうのもいこうか」
「えっ!?」
「あれ? 俺が行ったらまずいヤツだったりする?」
「いや、伊達君が来るって返事するのが珍しいなと」
「今日はこの芸能界にいるみんなが家族って思いたくなった。何でだろうな。芸能界四天王なんて昔から言うけどさ、そんな肩書きなんてどうでもいいのよ。少なくとも俺たちにとっては」
「うん。そんなふうにみえるよ」
「ムーンライト総出? 俺をそっちに引きこむのはナシな?」
「そっちこそ。私をクリスタルエデンに引きこむのはナシよ」
「ヘヘッ。じゃ案内してくれ。鷹山副長」
「御用改めであるぞ? ストーカー野郎」
人と人の繋がりは良くも悪くも見えないところで育まれる――
これにて芸能界になろう「芸能界四天王編」を終了とします。本章の最後まで読んで頂き大変にありがとうございましたm(_ _*)m
暫く休載期間を持ちまして次章の連載開始とします。次章の章タイトルは「みんなの芸能人」です。おたのしみにm(_ _)m




