~第10幕~
少し時間を遡る。その日の朝にクリスタルエデン所属で俳優業と監督業さらに裏方業務もこなす同社エースと誰からも謳われる鳴沢樹が本社に来ていた。
「おはよう。今日も2日酔いだけど許せよぉ~」
「おはようございます! 賢治さんは365日酔いでしょうが?」
「ツッコミうまくなったな。誰かと組んで漫才王にでてみるか?」
「でません。私、芸人ではないので」
「ヘヘ。君が言うと、めくるちゃんよりパンチ力ある気がしたぜ。今日はなぁ、この芸能界のドンと会いにゆく。いい勉強になる。俺からついて離れるなよ?」
「えっ!? それって!?」
彼女は幼少時に迷子になったところをろっくタケシに救われたという出来事を持つ。演劇に目覚めたのは中学生の頃からだったが、映画業界で出世するならばそのタケシの元で! という熱い思いを背負って役者人生を突き進んできた。
大学の就職活動の中でタケシキャッスルの面接も受けた。しかし、その面接官から面接後に枕商談を掛けられて激怒。内定通知は送られたものの、破り捨てて送り返したという。丁度この時にタケシキャッスルは社長をはじめとした運営と所属タレントの巨星であるタケシが凄まじい喧嘩をして決別するタイミングにもあった。
それでも鳴沢の情熱は冷めない。
産業機械メーカーに就職しながらも劇団に入団して役者を続けたのだ。団長になり、台本の執筆も手掛けるまでになる。やがてクリスタルエデン入社。それもタレントとしてではなく裏方スタッフでの入社だ。ところがとあるテレビドラマのエキストラで妙な存在感を発揮していたもので役者仕事も担うように。
そのまま世間を席巻した30分映画の斬りこみ隊長「マイ・フェイバリット・シングス」で初監督も務める。クリスタルエデンの何でもできる天才。そんな彼女はやはり改めてろっくタケシを諦めてなかった。
意外にも伊達賢治とろっくタケシは面識がある。漫才王優勝で一躍有名になった時に彼の番組にて漫才を披露して彼からの酷評を受けたものだが、ヨウチューバーとして一世を風靡、スタンドアップスピーチヒーローの優勝&吉原退所そして会社設立をしだした時になって「オイラはこのコ、面白いと思うよ」と言いだすように。またタケシキャッスルからタケシフォレストに移籍せず賢治と組む事にした野田栄一郎にも文句ひとつ言わなかった。むしろエールを贈ったのだ。
さらに伊達賢治監督デビュー作「ブラック企業によろしく」にも出演。
そんな賢治が遂に憧れのタケシと会わせてくれる――
いや、でも、鳴沢が連れられてきたのはそれとは別の大物がいるところだ。
「まぁ2人きりで話そうか。おい。お前。でてっていいぞ」
「はい。失礼します」
武来庵が側近と思われる女性の席を外させる。
「ナルちゃんはそこにいていいよ。これも勉強だ」
「えぇっ!?」
賢治は鳴沢の席を外させなかった。
「オメェのところの頭はずっと酒を飲んでいるのか?」
「はい。私もカメラのまえでやっているパフォーマンスだと思っていたのですが、この御方はマジです」
「俺と話したいのだろう? 俺に話してくれよ?」
「酔っ払いには話したくねぇ性格なんだよ。でも、話してやる。例のムーンライトの件だが、なんとかなりそうじゃねぇか。どんな魔法を使った?」
「魔法なんてないよ? ただ俺がこうやって動いたら上場なんて撤回するだろうって思っただけさ。あの会社は目立つことをすればするほど寿命を縮めるだろうから。ナルちゃん、タブレットをだしてみせて」
賢治がそう言うと鳴沢は鞄からタブレットをだす。
それからその画面にムーンライトのホワイト・パーティが映しだされたのだ。これには鳴沢もポカンと口を開けて驚くしかなかった。
「どうやってコレを手に入れた?」
「そりゃあ企業秘密」
「これでムーンライトを脅すつもりか?」
「いいや。墓場まで持っていくさ。ただ、もしもムーンライトが俺たちを超える存在になったとき、これは笑いごとにならないトリガーになる」
「目的は何だよ? この野郎」
「まだ余裕があるなぁ? おじいちゃん」
賢治のその一言に彼はハッとした。
「地毛が赤い髪の若いコなんてそうそうしないと思うけど、アンタと同じような顔をしたコが今度レッドカーペットの所属タレントになるのだってな。赤毛だからレッドカーペットってギャグかよ」
タブレットに映っているのは自身の孫。
「アンタは建前上独身だけど? それがこのコの顔をみて何でそんな顔をする? で、このコはどうやら俺たちクリスタルエデンにも興味があるようで。でも、何かの圧力だなぁ。レッドカーペットでアイドルユニットを組まされる形で芸能界デビューときた。天国にいるひばる様はどうみておられるだろう?」
「いい加減にしろよ!!! お前!!! 何だ!!! 何なんだよ!!!」
「落ち着け。俺が何かするって言ってねぇだろう。ヤクザでもあるまいし」
「俺を脅すつもりできたのか!!!」
武来庵は賢治の胸座を掴んだ。でも賢治は飄々としたまま。
「お願いしに来たのさ。その手を放せ。まず1つ」
無頼庵の鼻息はまだ荒い。でも、鳴沢の優しい手が握る手に重なることでその手を放すことにする。
「悪かった。用件を言ってくれ。クリスタルエデン社長殿」
だが、その睨みを緩めることはない。
「仲良くしようよ。いっしょに面白いことをやろう」
は?
「去年やった『メディア王に誰が笑う』を今年もやる。そこに出演して欲しい。いや、違ったな。出場して欲しいだ。賞金は1億。どうだい?」
鳴沢が「ふぁっ!?」と言うのと同時に賢治はグビグビとウィスキーを飲む。
「別に断っても俺は何もしないよ? ただ闇岡の兄ちゃんにはよく言っておいてくれ。会社をでかくしたいなら脇はしめなさいってさ。俺たちが今、何て世間に言われているか知っているか? 四天王だってよ。ははっ。笑わせてくれるよ。でも、だからこそ俺たちはくだらねぇことで倒されちゃ駄目なんだよ。じゃあなぁ。『メディア王に誰が笑う』で会えばバチバチにやりあおう。帰るよ。ナルちゃん」
あっという間に賢治と鳴沢は去る。
恐る恐るギャロップ幹部職員の本羽が部屋に入ってくる。
そこにいるのは苦笑いを浮かべながらもソファーに深々と腰掛ける武来庵。
「何だよ? アイツは? 気持ち悪いぐらい気持ちのイイ野郎じゃねぇか……」
続けざまに「久しぶりにテレビにでるわ」と彼が言うのを聴いて本羽も思わず微笑んでしまった。
最初から彼は戦いに来てなかったのだ。
ダテケンv.s.武来庵でした(笑)
でも、そうです。ダテケンはハナから戦いに来てはいない。
それをナルちゃんに実践で教えたのですね。次号(#^.^#)m9ドーン!!!!




